京都地方裁判所 昭和53年(行ウ)15号 判決 1991年7月05日
京都市西京区大原野上羽町一〇番地の一二
原告
山口光一郎
右訴訟代理人弁護士
莇立明
京都市右京区花田町一〇番地の一
被告
右京税務署長 竹下格
右控訴代理人弁護士
小藤登起夫
右指定代理人
白石研二
右当事者間の頭書所得税更正処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり、判決する。
主文
一 被告が原告に対し昭和五〇年三月一二日付でした昭和四六年ないし昭和四八年分各所得税の更正処分及び右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和四七年分は各処分とも昭和六〇年三月六日付減額更正処分による減額後のもの、昭和四八年分は各処分とも裁決による一部取消後のものをいう)のうち、総所得金額につき、昭和四六年分は二、〇四五万六、五六五円、昭和四七年分は五八九万七、〇四七円、昭和四八年分は二、八六三万一、七四五円をそれぞれ超える部分をいずれも取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
1 被告が原告に対し昭和五〇年三月一二日付でした昭和四六年ないし昭和四八年分各所得税の更正処分のうち、総所得金額につき、昭和四六年分は二九二万三、二〇〇円、昭和四七年分は三三九万二、〇〇〇円、昭和四八年分は五一〇万円をそれぞれ超える部分、並びに、右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和四八年分は各処分とも裁決による一部取消後のものをいう)をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二当事者の主張
一 原告(請求原因)
(一) 原告は、宅地の造成分譲、住宅の建売及び家具販売を業とする者であるが、原告は、昭和四六ないし四八年分の所得税の確定申告をしたところ、被告はこれに対して更正をし、その後、異義決定、裁決があったが、その確定申告、更正、異議決定、裁決等の課税の経緯は、別表裁三記載のとおりである(以下、昭和五〇年三月一二日付の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、本件各処分という)。
(二) しかし、各処分には次のとおり違法事由がある。
(1) 被告は、税務調査につき、事前通知もなく、かつ、調査理由の開示もないなど違法な調査に基づき本件各処分を行った。
(2) 被告は、原告が民商会員であることから予断と偏見に基づき更正した。
(3) 原告は白色申告者であるが、これについても更正には理由が付記されるべきところ、本件更正には理由の付記がない。
(4) 本件各処分のうち、原告主張の金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定した違法がある。
(三) よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消を求める。
二 被告(答弁・主張)
1 答弁
(一) 請求原因(一)の事実を認める。
(二) 同(二)、(三)の事実を争う。
2 主張
(一) 推計の必要性
(1) 被告は、原告の各係争年分の所得調査のため、昭和四八年一一月七日から昭和五〇年三月六日まで、再三にわたり所属職員らを臨場させたが、原告は、事業に関する帳簿及び原始記録をまったく提出せず、また、取引先、取引銀行、雇人、資産状況等の質問に答えず、「税務署に見せるものはないし、いう必要もない」などといって、まったく調査に協力しなかった。
(2) したがって、被告は、実額による所得金額の計算は困難であり、推計による所得金額を算定する必要がある。
(二) 推計の合理性
被告は、次の(四)、(五)の方法により、判明した原告の取引実例の実額を基礎として、売上額、売上原価、必要経費などを推計し、その取引実例でも推計できない建物建築の原価率、土地・建物の販売経費率、家具販売の原価率及び所得率等は(五)(1)の抽出方法により同業者を選定して推計を行い、(五)(1)イ(2)(3)の数値を基礎として、(四)冒頭の事業所得金額を推計した。この推計には、いずれも、次のとおり合理性がある。
(三) 原告の総所得金額
原告の本件各係争年分の総所得金額は、別表乙一の1ないし3のとおり、事業所得金額に給与所得金額を加えたものである。
(四) 原告の事業所得金額
原告の本件係争各年度分の事業所得金額及びその計算根拠は、別表裁二の1~9の被告主張欄及び以下に記載するとおりである。
(1) 売上金額
原告の事業の形態は、<1>宅地の造成販売、<2>宅地付建売住宅の販売、<3>建築請負、<4>家具の販売に四分することができるが、このうち、これを売上種目として業種別に、<1>と<2>の土地に関する部分を「土地」、<2>の建物部分と<3>を「建築」(但し、売上種目以外の場合は建物という)、<4>を「家具」として以下に分類して別記する。
イ 土地及び建築
別表乙一の1ないし3のとおりである。
なお、その物件別売上金額は別表裁二の1~9の被告主張欄記載のとおりである。
(イ) 各表の「算出方式区分」欄の「A」との表示(以下A方式という)は、調査実額によるものである。
(ロ) 同表「B」ないし「F」との表示(以下BないしF方式という」は、次の方式の推計により算定したものである。
a B方式は、調査により把握した売上実例の総額を、推計によって土地建築に係る売上金額にそれぞれ按分した。按分方法は、床面積に別表乙二によって算出した「平均的な建物一平方メートル当たりの売上価額(新築時の価額を適用)」を乗じて建物の売上原価を算出したもので、土地に係る売上金額は、土地、建物の調査総額から右建物に係る売上金額を差し引いた残額とした(別表乙五の1参照)。
b C方式は、前記aの別表乙二の「平均的な建物一平方メートル当たりの売上価額」に代えて、類似の取引例によって算出される建物一平方メートル当たりの売上金額を採用したものである(別表乙五の2参照)。
c D方式は、土地については、地積に、当該土地の仕入金額に市街地価格指数によって算出した値上がりによる利益及び原告固有の取引上の利益を加算した一平方メートル当たりの売上価額を乗じて算定し、建物については、床面積に、「B」方式と同様に、別表乙二の「平均的な建物一平方メートル当たりの売上価額」を乗じて算出した。なお、C方式と同様に、類似の取引例がある場合には、類似の取引例によって算出される土地及び建物の各一平方メートル当たりの売買価額(複数の取引例がある場合にはその平均値を採用)を優先して採用したものである(別表乙五の3参照)。
d E方式(西ノ京マンション)は、地積に当該土地の仕入金額に市街地価格指数によって算出した一平方メートル当たりの売上価額を乗じて土地に係る売上金額を算出し、建物に係る売上金額は、調査総額から右土地価額を差し引いた残額とした。
e F方式は、その売渡総額を、右マンション内の同一フロアの物件の取引例により推認した金額である(別表乙五の4参照)。
ロ 建築
建築請負代金額は別表裁二の1~9の「算出方式区分」欄に「A」と表示した欄の建築記載のとおりであって、調査実額によるものである。
ハ 家具
家具の売上金額は、後記(2)ロの売上原価を平均原価率(別表乙一の1~3参照)で除して算出したもので、その売上額は別表乙一の1~3の家具の売上欄記載のとおりである。
(2) 売上原価
イ 土地
土地の売上原価は別表乙一の1ないし3のとおりであって、仕入金額並びに期首及び期末棚卸高の調査実額ないし推計によって算出したものである。
なお、土地の仕入金額、棚卸金額の明細は別表乙六の1~3、七の1、2のとおりである。
ロ 家具
家具の売上原価は、係争各年分の期首及び期末の各棚卸高には大差がないので、別表乙八記載の各年分の仕入金額と同額とみなして計上した。
(3) 必要経費(利子割引料を除く)
イ 土地及び建築
各係争年分の土地及び建築の必要経費は、別表乙一の1~3の各必要経費・土地建築合計欄記載のとおりであって、売上金額に経費率を乗じて算出したものである(必要経費=売上×経費率)。
ロ 家具
家具の事業所得金額は前示(1)ハのとおり、売上原価に平均原価率(別表乙一の1~3参照)で除して算出したので、必要経費の算定を必要としない。
(4) 利子割引料
原告主張額による。
(五) 推計方法の個別的合理性
被告が本件各係争年分の事業所得の算定に用いた推計が合理的であることは、以下のとおりである。
(1) 同業者率
イ 原告の係争各年分の事業所得金額の推計の基礎に使用した同業者率の計算根拠は別表乙九ないし十一のとおりである。
ロ 同業者抽出基準
同業者率の算定に使用した同業者は、<1>建築の原価率は一般建築業者、<2>土地・建物の販売の経費率は、建売業者、<3>家具販売の原価率及び所得率は、家具小売業者から、それぞれ次の基準により抽出したもので、その抽出過程に恣意はない。
(イ) 原告が居住している京都市西京区を管轄する右京税務署の管内において、<1>係争各年分を通じて、事業を継続していること、<2>青色申告書により所得税(法人税)の確定申告をしていること、<3>他の業種目を兼業していないこと、<4>係争各年分の所得(法人)税について、不服審査または訴訟が係属していないこと。
(ロ) 一般建築業者・建売業者は、昭和四八年分の同業者の売上金額が、原告の売上金額に対しその上限、下限いずれも五〇パーセントの範囲内であることを基準として付加した。
(ハ) 家具小売業者は、原告の仕入金額(売上原価)を事業規模の判断基準として、原告よりも立地条件が悪いが売上原価が原告にもっとも近似する同業者F及びGを抽出した。
(2) 土地及び建築の売上金額
土地及び建築の売上金額の実額を把握できないものにつき「平均的な建物又は土地一平方メートル当たりの売買価額」又は「当該物件と同地域、同種類、同時期の物件の取引例によって算出される建物又は土地一平方メートル当たりの売上価額」を基礎数値として、その売上金額を推計したものである(別表乙二、四の1、2)。なお、売買実例には特殊な売買を除いている。
また、総額で売買している物件は、まず建物価額を算定し、売上総額から建物の価額を差し引いて土地の価額を算定した(ただし、西ノ京マンションは、他にマンションの売買実例がないため、土地の売上額を推計し、売上総額から右金額を控除し、建物価額を算出した)。
(3) 土地の売上原価
土地の売上原価は、実額の把握できない物件について、原告の他の取引実例により、その取引例がない場合は、当該土地付近の取引例等を基礎数値として推計した。各物件の個別的算定根拠は別表乙六の1~3のとおりである。
(4) まとめ
以上のとおりの方法によって抽出された同業者に基づき算出した、<1>建築の原価率、<2>土地・建築の販売の経費率、<3>家具販売の原価率及び所得率は、いずれも正確性と普遍性が担保されており、被告のこれらを用いた原告の本件係争各年分の事業所得の推計には合理性がある。
(六) 本件課税処分の適法性
原告の本件係争各年分の事業所得金額は、前示(三)のとおり、別表乙一の1~3に記載のとおりであり、その範囲内でした本件各処分はいずれも適法である。
三 原告(被告の主張に対する認否、主張、反論)
1 認否
(一) 被告主張の前示二2(一)の推計の必要性を争う。
(二) 同(二)の推計の合理性の主張を否認する。
(三) 同(三)のうち、(1)ハの家具売上額が被告主張の金額であることを認めるが(原告はこれと同額の別表甲一の1~3の提出により認めた)、その余を争う。
(四) 同(四)の事実を否認する。
(五) 同(五)の推計方法の個別的合理性を否認する。
なお、本件推計には、(1)土地及び建物の売上金額の算出、及び、(2)売上原価算定の誤りがあり、また、(3)その物件別の基礎数値が実額と異なる。
その詳細は後記2主張のとおりである。
(六) 同(六)を争う。
2 主張
(一) 事業所得金額の計算
原告の本件各係争年度事業所得金額の計算は別表甲一の1~3記載のとおりである。
(二) 推計の合理性の不存在
(1) 被告主張二2(四)(1)売上金額の推計について
イ 土地及び建物又は建築の算出方式の誤り
別表乙一の1ないし3、及びその物件別売上金額を示す別表裁二の1~9の「算出方式区分」欄に関する前示被告主張二2(四)(1)イ(イ)(ロ)のうち、「A」ないし「F」の各方式は次のとおり誤りである。
(イ) 「A」方式について
被告は、「A」方式を原告の取引実例の実額であると主張するが、このうち、別表裁二の1の(1)-2伊藤隆、(4)-1の河音久子、(4)-4三浦圭一、別表裁二の2の(8)-1の丸岡益太郎、別表裁二の3の(1)-2の伊藤隆、(2)-1黒川龍男、別表裁二の4の(2)-7の奥田昭治、(2)-9の福島環、別表裁二の6の(8)-2の今井昭子、(2)-3の京都府土地開発公社、(8)-4の奥村泰一、別表裁二の7の(2)-9の福島環、(2)-12の玉井重幸の土地及び建築の売上金額の実額は、各同表の原告主張欄記載のとおりであって、被告の主張は誤りである。なお、その理由の詳細は本判決理由欄のA方式に関する説示欄に記載のとおりである。
(ロ) 「B」方式について
a B方式では、別表乙二によって算出した平均的建物一平方メートル当たりの売上金額を基礎数値として建物売上金額を算出し、土地に係る売上金額は調査によって把握した土地及び建物の売買総額から右建物の売上金額を差し引いた残額であるとしている。(a)このうち、一平方メートル当たりの売上金額は、原告の別表乙二の基礎とされている売上実例六件の建物売上金額が被告の調査した金額というが、そのうち、別表裁二の1の(4)-3、及び、乙二の4の(2)-7は認めるが、その余の四件が原告の調査した実額と異なる。(b)売上実例六件はアパート、工場等の一般木造住宅の範囲に入らないものを除いたものであるとされているが、これに当たらない例えば(2)-5の加藤倭彦の売買実例が理由もなく除外されている。(d)なお、原告の一般木造住宅の建築は、建売住宅建築ではなく、顧客の注文による注文建築とほぼ同じものであり、内装、設備、設計につき顧客の申出、注文を受けて建築したものであるから、被告の推計により算出した建築価額より相対的に建築費は高額である。したがって、これを控除した土地売上額が低くなり、原告の利益率、所得は被告主張額よりも低い。
b B方式の各物件別の売上年度、売上金額は別紙裁二の原告主張欄記載のとおりであるから、被告の主張をすべて争う。なお、その理由の詳細は後示ロの物件別反論及び本判決理由欄のB方式に関する説示部分に記載のとおりである。
(ハ) 「C」の方式について
C方式の各物件別の売上年度、売上金額は別紙裁二の原告主張欄記載のとおりであるから、被告の主張を争う。
なお、その理由の詳細は後示ロの物件別反論及び本判決理由欄のC方式に関する説示部分に記載のとおりである。
(ニ) 「D」方式について
a D方式は、平均的な土地一平方メートル当たりの売上価額を、地積と当該土地の仕入金額に市街地価格指数を乗じて算出した値上利益とこれに原告固有の取引上の利益を加算した金額を基礎数値として算出し、(a)被告は、原告販売の土地実例一一件を選定しているが、原告の土地販売実例から、別表裁二の3記載の(1)-2伊藤隆、別表裁二の4記載の(2)-7奥田昭治、別表裁二の6記載の(8)-3京都府土地開発公社、別表裁二の7記載の(3)-2安井一夫、別表裁二の8記載の(4)-6三浦圭一を理由なく恣意的に除外している。(b)被告主張の金額実例のうち、別表裁二の1記載の(4)-4三浦圭一、別表裁二の7記載の(2)-12玉井重幸の実例は原告の調査した実額と大きく異なっている。(c)売上差益率(別表乙四の2)前記不合理な土地売上実例を基礎として平均的な土地売上価額を取得原価で除した土地一平方メートル当たりの売上差益率が算定されているが(別表乙四の2)、売上実例一一のうち、別表裁二の1記載の(4)-5の京都府への売買実例に限って土地一平方メートル当たりの売買差益率が一一六・三六パーセントという異常なものが混入している。建物の実例一〇の差益率は最低一五パーセントから六八パーセント内である。このような異常な一例を平均値を出す基礎に加えるのは不当である。この京都府への売買実例は、この細長い土地全体が公道に面していたため、京都府が小川改修工事に伴い公道を拡幅する必要から、とくに高額な金額で買い入れたものであって、これを他の一般の売買価額の推計の基礎に算入することは、不当である。この実例を除外すると、売買差益率は平均三七パーセントとなる。
b 個別的反論
別表裁二の6(7)-8(買受人真鍋宗平)分の被告の主張を認めるが、その余のD方式の各物件別の売上年度、売上金額は別紙裁二の原告主張欄記載のとおりであるから、その被告の主張を争う。なお、その理由の詳細は、後示ロの物件別反論及び本判決理由欄のD方式に関する説示部分に記載のとおりである。
(ホ) 「E」方式について
E方式の各物件別の売上年度、売上金額は別紙裁二の原告主張欄記載のとおりであるから、その被告の主張を争う。なお、その理由の詳細は後示ロの物件別反論及び本判決理由欄のE方式に関する説示部分に記載のとりである。
(ヘ) 「F」方式について
a これは物件の土地及び建物の「売渡総額」自体を他の物件取引例により推定した金額であるが、何の合理性もない。とりわけ、別表裁二の4記載の(5)-1の矢野の例(甲第四一号証)、同表乙(5)-2の小滝の例(甲第四二号証)、別表裁二の8記載の(5)-13宇野の例(昭和四八年の売上である)(甲第四四号証)ではその誤りが明らかである。
b 個別的反論
F方式の各物件別表裁の売上年度、売上金額は別紙裁二の原告主張欄記載のとおりであるから、その被告の主張を争う。なお、その理由の詳細は後示ロの物件別反論及び本判決理由欄のF方式に関する説示部分に記載のとおりである。
ロ 物件別の反論
(イ) 土地及び建築の売上金額について
被告は土地・建築の売上金額の推計額を別表裁二の1~9の被告主張欄のとおり推計して主張するが、その実額は同表の原告主張欄の各年度別土地・建築の物件別売上金額記載のとおりであって、被告の推計には種々の不合理がある。
(ロ) 土地建物の収入金額の計上時期について
a 被告は別表裁二の7記載の(2)-9の物件(買受人福島環分)について、同表被告欄記載のとおりこれを昭和四八年の売上に計上しているが、これは代金を昭和四七年中に受領して物件を引き渡したから、昭和四七年の売上に計上すべきである。
b 被告は別表裁二の3記載(1)-7の物件(買受人林清分)について、同表被告欄記載のとおりこれを昭和四八年の売上に計上しているか、これは昭和四七年中に建売住宅を建築して土地建物とも引き渡しているから、昭和四七年の売上に計上すべきである(甲第五四号証参照)。
c 被告は別表裁二の1記載の(1)-1の物件(買受人小島テル分)について、同表被告欄記載のとおりこれを昭和四六年の売上に計上しているが、これは昭和四五年一二月一五日に売買契約をし、代金全額を受領して土地建物を引き渡しているから、昭和四五年の売上に計上すべきである(甲第五号証の三参照)。
なお、登記が昭和四六年一月二八日となっているのは、伏見信用金庫の仮登記の抹消に日時を要したため、その抹消と移転登記を同日に行ったことによるものである。
d 被告は別表裁二の1記載の(1)-2の物件(買受人伊藤隆分)について、同表被告欄記載のとおりこれを昭和四六年の売上に計上しているが、これは昭和四六年八月二七日に売買契約をしたが、その代金は昭和四七年一二月一四日に全額受領して土地建物を引き渡しているから、昭和四七年の売上に計上すべきである(甲第六四号証参照)。
(2) 売上原価の算出について
被告はその主張前示二2(五)(3)の売上原価において、原告の土地の仕入価額につき、別表乙六の1の被告欄記載のとおり主張しているが、その実額は同表の原告欄記載の金額であって、その理由は以下のとおりである。
イ 同表番号<1>の大原野上羽町の山本正彦外六名に対する土地の仕入価額は、被告主張の一〇六万八、〇〇〇円ではなく、坪当たり一〇万円で計一七八万四、〇〇〇円である。これは、同土地を原告に転売した丸岡が譲渡益が大きすぎるので、これを圧縮するため坪当たり五万九、〇〇〇余円の金一〇六万八、〇〇〇円として申告したものである(甲第一一一号証の丸岡の証明書参照)。
ロ 同表番号<2>の長岡京市長法寺中畑の土地二、八三二平方メートル(譲渡人宇津利三郎)
(イ) この土地のうち、原告が宇津から買い受けたのは、一、八七七・二一平方メートルにすぎず、その余は、黒川龍男が宇津から直接買い受けたものである。即ち、原告は宇津から昭和四六年四月一六日、宇津から長岡京市長法寺中畑一六番地の二外二筆の田外合計二、八三二平方メートルのうち、一、八七七・二一平方メートルを代金五、六八六万六、〇〇〇円で買い受け、黒川が右三筆の土地のうち、同所一八番地の一の一、三九五平方メートルのうち原告購入分以外の土地部分九五四・七九平方メートルを二、八八〇万円で買い受けた(甲第六一号証)。
しかし、この地目が田であったため、農地転用許可の申請手続きを原告が黒川の分も含めて一括して行ったため、原告が全体の土地を代金八、五六六万六、〇〇〇円で買い受けたように契約書を作成して(甲第四九号証)、原告名義に所有権移転登記をし、その後、宅地転用手続きのうえ、黒川がその買い受けた土地部分を宅地として第三者へ転売した。もっとも、登記名義は中間省略登記により原告名義から買主に直接移転登記をしたので、黒川の名義は登記上にはでていない。このように黒川が宇津から直接土地を買い受けたことは、黒川が宇津に代金を支払った日である昭和四六年四月一六日に、黒川が京都銀行から二、五〇〇万円を借用して、同銀行の根抵当権が黒川を債務者として設定されていることからも明らかである(甲第一六号証)。原告は自己の買い受けた土地(一六番地の二全部、一七番地の一全部、一八番地の一の一部)一八八・二一平方メートルの代金五、六八六万六、〇〇〇円を支払った(甲六二号証の一~四)。
なお、以上の右土地の売買の経緯は別表甲二のとおりである。
(ロ) 被告は右同表番号<2>の土地全部の造成費を七〇七万一、五〇四円であると推計しているが、造成費の実額は土地全体で八一〇万三、一一〇円、原告買受土地分は五三七万一、二〇〇円である(甲第一一二号証の高橋晴代の造成費証明書参照)。
ハ 同表番号<3>の長岡京市今里野添一丁目の土地 この物件の取得価額が六三二万五、〇〇〇円であることを認めるが、造成費が大きく異なるので、仕入価額が異なる。
ニ 同表番号<4>-1の長岡京市井ノ打西ノ京の土地(B)物件の造成費を不当に低廉に推計している。その実額は五〇二万八、九〇〇円である。
ホ 同表番号<6>の長岡京市調子二丁目の土地の仕入価額を被告は三三〇万円であると主張しているが、真実は六一六万〇、四五四円である。このことは譲渡人である全京都建設協同組合の売却価額実額の証明書により明らかである(甲第五九号証)。
(3) 土地売上原価の推計について
イ 推計自体の誤り
被告は売上原価そのものを推計する誤りを犯している、しかも、その売上原価の算出方法が、推計した売上金額から売上利益率を割り出したものを基礎としているのだから、問題にならない。
ロ 推計方法の誤り
被告は土地の売上原価につき、入金額並びに期首及び期末棚卸高によって推計を行っているが、取得土地には道路予定地が含まれており有効土地は地積より少なくなるのに、地積面積そのままの坪数で推計するのは誤りである。原告は、これに対し別表甲三のとおり仕入金額の実額を主張して反証を行っている。なお、棚卸額の明細は別表甲四、造成費用は別表甲五のとおりである。
(4) 必要経費について
被告は前示2(四)(3)において、必要経費のうち、イ 土地及び建築につき、各係争年分の土地及び建築の必要経費を売上金額に経費率を乗じて算出し(必要経費=売上×経費率)、ロ 家具につき、その事業所得金額を前示(1)ハのとおり売上原価に平均原価率(別表乙一の1~3参照)で除して算出し、必要経費の算定を必要としないと主張しているが、原告の必要経費の実額は、別表甲一の1~3のとおりである。
四 被告(原告の主張に対する反論)
1 準備手続終結後の実額主張
原告が本件準備手続終結後になした本件各係争年分の所得額の実額主張や、甲第三二号証ないし第一一二号証(ただし、被告が成立を認めた書証を除く)(以下、これを本件契約書という)は、訴訟の遅延をきたしたばかりか、ことさらに事実確認の困難な時期をねらったものであるから、本件準備手続終結の効果として口頭弁論において主張ないし提出できないものであり、民訴法二五五条一項により却下すべきものである。さらに、このような原告の態度は租税事件における信義則に反するものであるから、右主張と証拠は所得金額の計算根拠とすることはできない。
なお、原告はこれにつき後記のようにこの主張はいずれも所得税に係わる被告の主張に対する否認ないし積極否認であるから、準備手続終結後でも主張できる旨主張するが、課税処分の取消訴訟の特殊性に鑑み、原告は被告が所得金額の計算の根拠について個別的具体的に主張・立証したにもかかわらず、きわめて容易になし得た筈の実額の主張立証を行わなかったのであり、また、取引先毎の売上金額及び仕入金額等の原告の主張は実額をもって被告の推計を争ういわゆる実額反証に当るものであるから、従来の単なる否認の内容を具体化した積極否認ではなく、抗弁事実であるか、少なくとも間接反証事項であり、原告が主張立証責任を負うものであって、準備手続終結の失権的効果が生ずる。
仮に失権効がないとしても、原告が全面否認から、突然本件実額の主張に変更したこと、原告の供述との相違、金額の異なる売買契約書が二通作成されているもの、売買契約書がなく確証がないものがあること等に照らし、売上に関する原告の主張は信用できない。
2 必要経費実額反証について
原告は必要経費の実額を主張しながら、経費の実額全体を把握し得る経費帳、現金出納帳などを提出せず、一部の領収書を提出しているのみである。即ち、原告の主張の必要経費のうち、昭和四六年分及び昭和四七年分の給料賃金の他は支出の根拠となる資料を提出していないし、昭和四八年分も一部の領収書等を提出するのみであるから、原告の必要経費の実額主張は認められない。また、原告提出の領収書は客観的根拠を欠き、実額主張の根拠とならない。
3 推計の合理性について
(一) 原告主張三2(二)(1)イの土地及び建築の算出方式について
(1) その(1)イの(ロ)において、別表裁二-3の物件番号(2)-5の加藤倭彦の売買実例が理由もなく除外されていることを不合理であるというが、被告はこれを恣意的に除外したものではないし、仮にこれを計算に入れても、別表乙三のとおりそれ程数値に大きな変動が生じないので、もともとの別表乙二の推計方法の合理性が失われるものではない。また、原告は、(ハ)の「D」方式のうち、(a)で原告販売の土地実例一一件の選定から、同表記載(1)-2伊藤隆、別表裁二の4記載(2)-7奥田昭治、別表裁二の6記載(8)-3京都府土地開発公社、別表裁二の7記載(3)-2安井一夫、別表裁二の8記載(4)-6三浦圭一を理由なく恣意的に除外していると主張するが、このうち、(1)-2伊藤隆は他地域ものであったこと、(2)-7奥田昭治は、当初推計で計上したがその後の調査額も間接資料によるものであったこと、(3)-2安井一夫は建物の床面積も広くて建売住宅の部類に入らないこと、(4)-6三浦圭一及び(8)-3京都府土地開発公社は、地積も少なすぎて建売住宅の部類に入らないこと等を考慮して特殊なものと認め、これを除外したものであって、恣意的に除外したものではない。
(2) また、原告は、被告が同(c)売上差益率において、土地売上実例を基礎として平均的な土地売上価額を取得原価で除した土地一平方メートル当たりの売上差益率を算定していることにつき(別表乙四の2)、売上実例一一のうち、別表裁二の1記載(4)-5の京都府への売買実例に限って土地一平方メートル当たりの売買差益率が一一六・三六パーセントという異常なものが混入しているので、不合理であるというが、売買差益率が不明な場合において、推計課税を行うにあたり、特殊事例を除きその売買差益率を機械的に平均し、その平均値をもって推計の基礎数値とすることは、やむを得ないことであって、売買差益率の多寡によって推計の基礎資料とすべきか否かの判断基準とすべきでない。
(二) 原告主張の同ロ物件別の反論の(ロ)土地建物の収入金額の計上時期について
(1) 原告は、(a)買受人福島環分につき、これを昭和四七年の売上に計上すべきであるというが、代金授受が昭和四七年に完了したという証拠がなく、代金完了と同時に登記手続きをし、目的物を引き渡すのが通例であるところ、登記が昭和四八年三月にされているから、被告主張のとおり昭和四八年の売上に計上すべきものである。
(2) 同(b)買受人林清分について、原告は、昭和四八年の売上にではなく、昭和四七年の売上に計上すべきであると主張するが、これは、乙第一三号証、第五号証の一一の裏付け証拠により、被告主張のように昭和四八年に計上するのが正しい。
(3) 同(c)の買受人小島テル分について、原告は昭和四五年分に計上すべきであり、登記が昭和四六年になったのは、伏見信用金庫の関係の仮登記抹消手続きの関係であるというが、昭和四五年一一月に代金支払いを完了し、現実の引き渡しが行われたという証拠はないし、他人名義の仮登記を抹消する1か月前に代金を完了したというのは、不動産取引の常識に反し、採用できない。
(4) 同(d)の買受人伊藤隆分について、原告は昭和四七年に代金を全額受領し、土地建物を引き渡したから昭和四七年の売上に計上すべきであるというが、根抵当権の設定日は昭和四六年八月二七日であり、原告はこの融資を受けて同日頃その代金を支払ったものというべきである。
(三) 売上原価の算出について
原告は前示主張三2(2)の売上原価において、別表乙六の1の被告欄記載のとおりの被告の主張に対し、その実額を同表の原告欄記載の金額であるとして、以下のとおり主張するが、いずれも失当である。
(1) 原告は同表番号<1>-2の丸岡益太郎から買い受けた大原野上羽町一〇-二の土地(山本正彦外六名に売却した土地)の仕入価額は被告主張の一〇六万八、〇〇〇円ではなく、一七八万四、〇〇〇円であり、これは、同土地を原告に転売した丸岡が譲渡益が大きすぎるので、これを圧縮するため坪当たり五万九、〇〇〇円余の金一〇六万八、〇〇〇円として申告したことによると主張するが、甲第四六号証、乙第六八号証によると、建築請負代金の内金一〇六万八、〇〇〇円と右土地代金とを相殺した旨丸岡が回答しているのであって、右土地の仕入(売買)価額が一〇六万八、〇〇〇円であることは明らかである。
(2) 同表番号<2>の長岡京市長法寺中畠の土地二、八三二平方メートル(譲渡人宇津利三郎)に関する原告の主張は、次のとおりいずれも失当である。
イ この土地のうち、原告が宇津から買い受けたのは、一、八七七・二一平方メートルにすぎず、その余は、黒川龍男が宇津から直接買い受けたものであると主張する。しかし、一八番四の土地外二筆の売買契約書(甲第四九号証)では、売主は宇津で買主は原告となっており、農地法の申請書も同様になっている(甲第六三号証)。そして、所有権移転登記も原告名義でなされている(甲第六七号証)。また、甲第六二号証の四の「黒川様土地代金」とする四月五日の二〇〇万円の入金は、原告が宇津から購入した一八番四の土地の一部を黒川に売却した代金の一部に外ならない。
ロ 原告は右同表番号<2>の土地全部の造成費を七〇七万一、五〇四円であるとの推計に対して、造成費の実額を土地全体で八一〇万三、一一〇円、原告買受土地分は五三七万一、二〇〇円であると主張している。しかし、被告は三越土地株式会社が昭和四七年当時長岡京市今里野添の土地を造成した一平方メートル当たりの造成費二、四九七万円(乙第七四号証の一、二)に地積を乗じて推計したものであって、その推計方法には合理性がある。なお、原告主張のその他の費用の三九万〇、三七〇円は内容が不明であり、その立証もない。したがって、当該土地の仕入価額を九、四七八万七、五〇四円とする被告の主張は正当である。
ハ 原告はその後一八番四の土地から同番五を分筆して、分筆後の一八番四の土地を別表裁二の3記載(2)-1のとおり原告が黒川龍男に三、三一四万一、〇五〇円で売却している(乙第一七号証の一~五、第三七号証)。
ニ 分筆後の一八番五の土地は、その後原告が奥村泰一に売却している(甲第六八号証)。原告は黒川が宇津から購入し直接奥村に売却したというが(甲第四〇号証)、同土地の黒川の仮登記は昭和四六年一二月二五日に抹消されているに(甲第六八号証の甲区三番)、その一一日後になってから奥村に移転登記がなされている。これは、原告と黒川との間で金銭的な精算がなされて仮登記を抹消し奥村に売ったことを示すものである。
(3) 原告は、別表乙六の1番号<3>の長岡京市今里野添一丁目の土地の仕入れ価額を、土地造成費等が高いので、九〇三万九、四七四円であるというが、被告は造成費を前示(2)bと同様の方法によって推計したものであって、その推計の方法は合理的である。仲介手数料は、同土地の売主が仲介人に支払った手数料一〇万円によって(乙第七三号証)、その買主である原告の仲介手数料を推認したものであり、その他の費用も同じく売主が支払った分の倍額である五、〇〇〇円を上回ることがないと推計したもので、被告主張の八〇五万六、四四六円には合理的な裏付けがある。
(4) 原告は、同表番号<4>-2の長岡京市井ノ打西ノ京の土地(B)物件の造成費を不当に低廉に推計しており、仕入価額は二、七二四万五、一〇〇円であると主張しているが、被告は昭和四五年及び昭和四六年の当時の長岡京市における一坪当たりの土地の平均的な造成費五、〇〇〇円(乙第一八号証)に地積を乗じて推計したものである。仲介手数料、その他の費用は同土地の売主の支払金額をもって買主である原告のその支払額を推認したものであって、被告主張の同土地の仕入価額二、四二五万〇、一二二円には合理的裏付けがある。
(5) 原告は、同表番号<6>の長岡京市調子二丁目の土地の仕入価額を被告主張の三三〇万四、一七二円を合理的ではないとして、真実は六一六万〇、四五四円であると主張し、譲渡人である全京都建設協同組合の売却価額実額の証明書(甲第五九号証)を引用している。しかし、この証明書(甲第五九号証)は、昭和五八年九月八日付けであり、同土地が売買された一三年後のものであって、原告が同協同組合の理事であったことなどその密接な関係に照らし、信用できない。
(四) 土地売上原価の推計について
原告は、被告が土地の売上原価を入金額並びに期首及び期末棚卸高によって推計をしたのに対し、取得土地には道路予定地が含まれており有効土地は地積より少なくなるのに、地積面積そのままの坪数で推計するのは誤りであると主張している。しかし、原告が土地を取得した時点では、どの程度の道路部分として供出(使用・寄付)するのかを予測することができず、また、原告の販売した土地の道路部分の面積が不明であるので、昭和四五年分ないし昭和四八年分の期末棚卸高の算定にあたって、買入公簿面積から売上面積を差し引いた残地面積に一平方メートル当たりの原価を乗じて期末棚卸高を算定したものであり、その後、判明した西京区大原野上羽町及び長岡京市長法寺中畠に係る昭和四五年分ないし昭和四八年分の期末棚卸高につき、買入公簿面積から期中に売却した面積とこれに対応する道路部分面積を控除した残面積に基づき算定したものであるから、被告主張の売上原価額の推計には合理性がある。
第三証拠
証拠に関する事項は、本件訴訟記録中の各証拠目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一当事者間に争いのない事実
原告主張の請求原因(一)の事実、即ち、原告が、宅地の造成分譲、住宅の建売及び家具販売を業とし、昭和四六年ないし四八年分の所得税の確定申告をしたが、被告はこれに対して更正をし、その後、異議決定、裁決がなされたこと及びその確定申告、更正、異議決定、裁決等の課税の経緯が、別表裁一記載(1)(2)(3)のとおりであることは、当事者間に争いがない。
第二準備手続終結後の実額主張の可否
一 被告は、前示事実第二の四(原告の主張に対する反論)において、原告は本件準備手続終結後に本件各係争年分の所得額の実額を主張し、いわゆる実額反証として本件契約書(甲第三二号証ないし一一二号証、ただし、被告が成立を認めた書証を除く)を提出するが、これは本件準備手続終結の効果として民訴法二五五条一項により却下すべきものである。さらに、このような原告の態度は租税事件における信義則に反するものであり、右主張と証拠は所得金額の計算根拠とすることができないものである旨主張するので、以下、この点につき、検討する。
二 原告は、本件の準備手続において、被告の推計の合理性を争い、被告主張の前示二2(二)の推計の合理性を否認したうえ、土地・建物の売上金額の推計につき、「被告は、『平均的な土地または建物の一平方メートル当たりの売上金額』を基礎数値として、または、『当該物件と同地域・同種類・同時期の物件の取引例』によって、土地・建築の売上金額を推計するが、その算定資料としての売上実例は、いずれも土地・建物が存在場所により著しく価格を異にするという実情を無視して恣意的に選択したものにすぎず、合理性を欠いている」と主張し、土地の売上原価について、「被告は、土地について仕入原価及び期首・期末棚卸高を推計するにあたり、いずれも土地の総面積から道路部分の供出を余儀なくされている実情を無視しているが、土地の売上原価を面積から推計するには、道路部分を除いた有効宅地面積を基礎とすべきである」といい、次いで、同業者の選定につき、その類似性を争い、さらに、これに加えて、予備的主張として、実額に即して算出した原告の本件各係争年分の事業所得金額の内訳を別表甲六、必要経費の明細を別表甲七、そのうち給料手当の明細は別表甲八、利子割引料、保証料の内訳は別表甲九のとおりである(ただし、家具の売上金額、売上原価、建築の売上原価は、いずれも被告の主張額による)旨を主張している。
三 その準備手続終結後、原告は、やはり推計の合理性を否認し、前示二2(二)(1)のとおり、被告主張の二2(四)(1)売上金額の推計につき、被告の土地及び建築の算出方式が誤りであるとして、次のとおり主張している。
前示事実適示二2(四)の原告の事業所得の金額(1)売上金額(ロ)の土地及び建築欄の項(本判決九~一一頁参照)及び物件別売上金額を示す別表裁二の1~9の「算出方式区分」欄記載の被告主張の「B」「D」「E」「F」の方式は次のとおり誤りである。
(一) B方式では、(1) このうち、一平方メートル当たりの売上金額は、別表乙三の基礎とされている原告の売上実例六件の建物売上金額が被告の調査した金額であるというが、そのうち四件が原告の調査した実額と異なる。(2) 原告の一般木造住宅の建築は、建売住宅建築ではなく、内装、設備、設計につき顧客の申出、注文を受けて建築したもので、被告の推計により算出した建築価額より相対的に建築費は高額であるから、これを控除した土地売上額が低くなり、原告の利益率、所得は被告主張額よりも低い。
(二) D方式は、(1) 被告は、原告販売の土地実例一一件を選定しているが、原告の土地販売実例から、別表裁二の3記載の(1)-2伊藤隆、別表裁二の4記載の(2)-7奥田昭治、別表裁二の6記載の(8)-3京都府土地開発公社、別表裁二の7記載の(3)-2安井一夫、別表裁二の8記載の(4)-6三浦圭一を理由なく恣意的に除外している。(2) 被告主張の売上実例のうち、別表裁二の1記載の(4)-4三浦圭一、別表裁二の7記載の(2)-12玉井重幸の実例は原告の調査した実額と大きく異なっている。(3) 売上差益率(別表乙四の2)
前記の不合理な土地売上実例を基礎として平均的な土地売上価額を取得原価で除した土地一平方メートル当たりの売上差益率が算定されているが(別表乙四の2)、売上実例一一のうち、別表裁二の1記載の(4)-5の京都府への売買実例に限って土地一平方メートル当たりの売買差益率が一一六・三六パーセントという異常なものが混入している。他の実例一〇の差益率は最低一五パーセントから六八パーセント内である。このような異常な一例を平均値を出す基礎に加えるのは不当である。京都府への売買実例は、この細長い土地全体が公道に面していたため、京都府が小川改修工事に伴い公道を拡幅する必要から、とくに高額な金額で買い入れたものであって、これを他の一般の売買価額の推計の基礎に算入することは、不当である。
(三) 「F」方式では、物件の土地及び建物の「売渡総額」自体を他の物件取引例により推定した金額であるが、別表裁二の4記載の(5)-1の矢野の例(甲第四一号証)、同表乙(5)-2の小滝の例(甲第四二号証)、別表裁二の8記載の(5)-13宇野の例(昭和四八年の売上である)(甲第四四号証)ではその誤りが明らかである。
四 民訴法二五五条一項は、「調書又ハ之ニ代ルヘキ準備書面ニ記載セサル事項ハ口頭弁論ニ於テ主張スルコトヲ得ス」と規定している。
(一) 前示三の原告の主張は、準備手続調書又は準備書面に記載していなかったものであるが、これは、前示二のとおり原告が当初から被告の推計の合理性を否認して争っていたものにつき、その理由として主張した事項のほかに、合理性の否認の理由として、新たに前示三の事項を主張したもので、いわゆる積極否認にあたる事項を主張しているものであるといえる。これにつき、原告は、この主張はいずれも所得額に係わる被告の主張に対する否認ないし積極否認であるから、準備手続終結後でも主張できる旨主張し、被告は、課税処分の取消訴訟の特殊性に鑑み、原告は準備手続においてきわめて容易になし得た筈の実額の主張立証を行わなかったのであり、また、取引先毎の売上金額及び仕入金額等の原告の主張は実額をもって被告の推計を争うものであるから、いわゆる実額反証であって、従来、単に否認していたものの内容を具体化した積極否認ではなく、抗弁事実であるか、少なくとも間接反証事項であり、原告が主張立証責任を負うものであるから、準備手続終結の失権的効果が生ずる、と主張している。
(二) そもそも、民訴法二五五条一項により失権的効果を生ずる「事項」は、攻撃防御方法のすべてであって、法律上の主張、事実上の主張、証拠のほか証書の認否も含み、以前に認めていた事実を翻して、単純に否認する場合もこれに含まれるが、従前否認していた事実につきその理由を附加して積極否認をいうにすぎない場合は、訴訟を遅延する性質のものではないといえるから、失権的事項に含まれないと考える。もっとも、これと異なり、いわゆる間接反証にあたる事実は、それを主張する者が立証しない限り、主要事実を認定される関係にあるので、抗弁と同様に訴訟遅延を招くものとして、失権的事項に含まれる。
(三) そして、原告の前示三は、このうち(一)(1)(2)、(二)の(2)、(三)は、被告が採用するいわゆる本人率による推計の前提となり、その合理性を基礎づける事実ないし数値を争い、推計の合理性を争うものであって、被告主張のように実額反証を行うものではない。即ち、いわゆる実額反証は原告が自己の所得の実額を主張立証して、推計による算出所得金額が証拠により認定される実額と異なるため、推計が誤りであることを立証するもので、原告に立証責任がある間接反証ないし抗弁という性質を持つものであるが、原告がここで争っているのはこれと異なり、被告の推計の基礎となる標本(サンプル)の基礎数値を争うものだからである。
推計の標本となる基礎事実ないしその基礎数値は確実に把握され、正確でなければならないところ、推計課税においては、推計の必要性と推計の合理性を基礎づける事実がその主要事実であるから、この基礎数値ないし基礎事実の実額を立証する責任は被告である税務署側にあり、原告の右主張はこれに対するいわゆる積極否認に当たるのであって、原告が準備手続終結前から、右の推計の合理性の主要事実を否認したうえ準備手続終結後にこれに理由を附して積極否認として右基礎数値の実額を主張することは、民訴法二五五条一項所定の「調書又ハ之ニ代ルヘキ準備書面ニ記載セサル事項」に当たらないし、たとえこれに当たるとしても、先に否認されている以上、被告はもともと推計の基礎となる標本の数値の正確性について、推計の合理性を基礎づける事実の一つとして、これを立証する責任があるから、その否認に理由を附加したにすぎない積極的否認事実の有無に拘らず、被告の攻撃防御の必要性の増加は、理論的にはあり得ないし、実務上その立証が単なる否認の場合には簡単に済み、積極否認の場合にはより詳細な立証が必要になることがあるとしても、それは前者の単なる否認という原告の態度など弁論の全趣旨に照らして事実上の推定類似の考慮が働くことによる反射的効果にすぎないのであって、これによっても、とくに、著しく訴訟を遅延させるものとはいえない。
したがって、原告の右主張には民訴法二五五条一項本文が適用されず、この主張が許されないという被告の前示主張は採用できない。
(四) 原告の前示三のうち、右(三)以外の事実である前示三(二)(1)、(3)の事実も次のとおりいずれも積極否認の主張というべきである。
(1)のD方式の実例につき、標本として被告が挙げた原告の実例のほか、五件を恣意的に除外していると主張するもので、これは推計方法の合理性を争うものであって、いわゆる実額反証ではないし、抗弁、間接反証でもなく、単に、従前行っていた推計の合理性の否認に理由を附したものにすぎず、積極否認に当たる主張であるというべきである。
(3)のD方式の売上差益率(別表乙四の2)につき、別表裁二の1記載の(4)-5の京都府への売買実例に限って土地一平方メートル当たりの売買差益率が一一六・三六パーセントという異常なものが混入していることを理由にこれを他の一般の売買価額の推計の基礎に算入することは、不当であるとの主張も、売上差益率の否認に理由を附するもので、積極否認であるというべきである。ただ、これはその理由が事実をもって争うものではなく、京都府に対する売買実例につきその売買差益率の異常さを指摘するものである点が、前示(三)の場合と異なるにすぎない。
したがって、三(二)(1)(2)の原告の主張も前示(三)と同じく民訴法二二五条一項本文の失権的効果によりその主張ができないものではない。
なお、原告の右積極否認の主張が被告主張のように租税法における信義則に反し所得金額の計算根拠とすることができないものともいえない。
第二推計の必要性等の検討
一 推計の必要性の検討
証人小原健吾の証言、弁論の全趣旨によると、原告は建築業及び家具販売業を営む白色申告者であるが、被告の調査担当職員は昭和四八年一一月七日から昭和五〇年三月六日まで、再三原告事業場に臨場し、原告に対し事業に関する帳簿書類の提示を求め、取引先、取引銀行、雇人、資産状況等の事業概況につき質問をしたが、原告は調査に無関係な第三者(民商会員など)を立ち会わせたうえ、同人の調査理由の説明に納得せず、こもごも大きな声で、「何しにきたんだ、調査理由もないのに調査ができるんか」とかいって、「造成して建売をしている」「どんぶり勘定で申告している」「青色申告もしていないし、法人でもないので見せるような帳簿はない」などといって、自己の業種や申告状況につき一部答えたのみで、実額計算に必要な帳簿書類を提示せず、調査に協力しなかったので、被告は本件係争各年分に係る所得金額の実額を把握することが不可能であり、これを推計する必要があることが認められ、他にこれを覆すに足る証拠がない(証人小原健吾の証言、とくに、昭和五七年七月二日第二回口頭弁論における証言中三~一三丁)。
二 調査、更正違法の検討
1 調査の違法について
原告は請求原因(二)(1)において、被告の税務調査が事前通知もなく、かつ、調査理由の開示もなく違法な調査に基づき本件各処分を行った旨を主張するが、税務署による法令上の一定の処分の事実認定判断に必要な範囲内で職権による調査が行われることは法の当然許容するところであるから、所得税法二三四条の規定は、税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査事項、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、質問検査を行う権限を認めたものであって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等その実施細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解され、実施の場所の事前通知、調査理由及び必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているものではない(最判昭四八・七・一〇刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。そして、本件調査の前認定の経過に照らすと、被告の税務職員が本件調査において調査の事前通知、調査理由及び必要性の個別的、具体的な告知をしなかったことに、裁量権の明白な濫用は認められないし、他にこれを違法と認めるべき理由は、その主張も立証もない。
2 更正の違法について
(一) 原告は、請求原因(二)(2)において、被告が民商会員である原告に対する予断と偏見に基づき更正をした旨主張する。しかし、本件全証拠をもっても、これを認めるに足る的確な証拠がない。
(二) 原告は、請求原因(二)(3)において、白色申告者である原告に対しても、更正には理由附記が必要である旨主張する。しかし、青色申告書に係る更正には理由附記が必要である旨の規定が存在するが(所得税法一五五条二項)、白色申告書に係る更正については同旨の規定がなく、法律上理由の附記が要求されていないから、白色申告書に係る更正にはその処分の根拠となった理由を記載する必要がなく、その更正に理由附記がないからといって、更正を違法とすることはできない(最判昭和四二・九・一二裁判集民事八八号三八七頁参照)。
3 まとめ
したがって、原告主張の請求原因(二)(1)(2)(3)はいずれも理由がない。
第三推計の合理性の検討
一 売上金額について
1 土地及び建築の売上金額について
被告は、土地及び建築の金額を実額で把握できない物件につき、原告の売上で判明している売買価額の一平方メートル当たりの売買価額、または、当該物件と同種の取引例による一平方メートル当たりの標本の売上価額を基礎数値として、推計を行っている。そして、この推計の方法自体は、弁論の全趣旨に照らし、事の性質上一応合理性があると認められるが、その具体的内容の合理性について、以下検討する。
(一) 各算定方式の合理性の検討
(1) 「A」方式について
被告は「A」方式を原告の取引実例の実額であると主張し、原告はこのうち、別表裁二の1の(1)-2伊藤隆、(4)-1の河音久子、(4)-4三浦圭一、別表裁二の2の(8)-1の丸岡益太郎、別表裁二の3の(1)-2の伊藤隆、(2)-1黒川龍男、別表裁二の4の(2)-7の奥田昭治、(2)-9の福島環、別表裁二の6の(8)-2の今井昭子、(8)-3の京都府土地開発公社、(8)-4の奥村泰一、別表裁二の7の(2)-9の福島環、(2)-12の玉井重幸の土地及び建築の売上金額の実額を否認し、その実額は、各同表の原告主張欄記載のとおりであって、被告の主張は誤りであると主張する。
そして、「A」方式のうち、右一三件以外の被告主張の売上額は、当事者間に争いがない。
したがって、当事者間に争いがある右一三件につき、以下順次検討する。
イ 買主伊藤隆分(別表裁二の1の(1)-2)は、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三三号証、弁論の全趣旨によると、別表裁二の1の(1)-2の被告主張欄記載のとおり、昭和四六年分売上が金四〇〇万円であると認めることができる。原告は甲第一〇号証を提出して、これが昭和四七年の売上であると反論するが、これは売買の一三年余経過後に作成されたものであり遽かに措信し難い。また、原告は土地建物の代金を授受し、物件を引き渡しのは昭和四七年一二月一四日であり、土地の移転登記が昭和四七年八月二七日であるのは、買主伊藤が買受代金を銀行から融資を受けるためであったと主張している。しかし、成立に争いがない乙第五号証の六(登記簿)によると、根抵当権設定が昭和四六年八月二七日になされているから、これをもってその頃売買代金が支払われたものとみるのが自然であって、特段の事情がないかぎり、売主が代金も受け取らないまま所有権移転登記をすることはないといえるから、原告の主張は遽かに採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠がない。
ロ 買主河音久子分(別表裁二の1の(4)-1)は、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第四五、第一四五号証、弁論の全趣旨によると、被告主張の別表裁二の1の(4)-1の被告主張欄記載のとおり、昭和四六年分の建物売上額は六二四万円であることが認められる。これに対して、原告は、土地・建物の売上金額は請負契約書(甲第三七号証)と、これに追加工事費八万円を加えた八八〇万円であって、これから土地の売上金額三四六万円を差し引いた五三四万円であると主張しているが、前示乙第四五、第一四五号証によると、現在河音久子は売買契約書を保存していないうえ、同人の夫河音能平から被告の元指定代理人藤原和彦に対して、原告主張の売上金額を上回る金額を支払った旨の回答をしており、原告の主張は採用できない。
ハ 買主三浦圭一分(別表裁二の1の(4)-4)について、被告は、弁論の全趣旨により認められる乙第四七号証により、土地、建物の各売上額は別表裁二1の(4)-4の被告主張欄記載のとおり、土地の売上額が四〇〇万円、建物の売上額が三八二万四、〇〇〇円で、土地の単価が平方メートル当たり二万九、一二〇円であると主張しているが、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第五五号証、乙第二四号証、弁論の全趣旨によると、原告主張のとおり、土地の単価は坪当たり九万円、即ち、平方メートル当たり二万七、二五六円であって、土地の売上金額が三七四万四、〇〇〇円、建築の売上金額が四〇八万円であると認めるのが相当であって、土地の単価が平方メートル当たり二万九、一二〇円であるとの被告主張に副う前示乙第四七号証の記載の一部は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに採用し難く、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。
なお、被告は、これに対し、買主三浦圭一とほぼ同時期に、河音久子及び京都府に右物件に隣接した土地を一平方メートル当たりそれぞれ三万二、三四四円、及び四万二、三四九円で売却しており、これらは原告主張の単価よりも高いが、原告はその価額を認めているので、買主三浦圭一に対する土地の売上単価が坪当たり九万円、即ち、平方メートル当たり二万七、二五六円であるというのは不当であると反論している。しかし、河音久子、京都府への売却はその一年後の昭和四六年に入ってからのことであり、土地の値上がりのため坪当たり約一万円程度河音らに高額に売却しているものであって(前示甲第五五号証)、これと買主三浦圭一が同じ単価でなければならないものではないし、買主三浦圭一に対する大阪国税局の聴取メモにも「土地@90,000」と記載されていることに照らしても(前示乙第二四号証)、被告の主張は採用できない。
ニ 買主丸岡益太郎分(別表裁二の2の(8)-1)は、原告は、この売上が〇であると主張しているが、成立の争いのない乙第一五三号証、弁論の全趣旨に照らすと、被告主張のとおり、昭和四六年一〇月に建築の売上額が五万九、四〇〇円であったことが認められ、他にこれを覆すに足る証拠がない。
ホ 買主伊藤隆分(別表裁二の3の(1)-2) 被告が建築の売上金額を同表被告欄記載のとおり昭和四六年の売上に計上しているのに対して、原告は、これは昭和四六年八月二七日に売買契約をしたが、その代金は昭和四七年一二月一四日に全額受領して土地建物を引き渡しているから、昭和四七年の売上に計上すべきであると主張するが、成立に争いのない乙第五号証の六、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三三号証、弁論の全趣旨によると、買受人伊藤隆は本件土地建物につき京都保証協会に対して根抵当権を昭和四六年八月二七日に設定し、その所有権移転登記も了しているのであり、原告はこの融資を受けて同日頃その代金を支払ったものと推認するのが相当である。即ち、一般に不動産の売主がその代金のための融資金が売主に支払われないのに、売主が所有権移転登記に応ずることはないものであるから、伊藤は同日頃金融機関から融資を受けて、原告にその売買代金を支払ったものと推認でき、これに反する甲第六四号証の記載の一部は前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠がない。
ヘ 買主黒川龍男分(別表裁二の3の(2)-1) 被告が長岡京市長法寺中畠一八番四の土地(別表乙六の1の<2>)(以下、一八番四の土地という)の売上金額につき、同表被告欄記載のとおり、この土地を黒川龍男に売り渡したと主張しているのに対して、原告はこれは右黒川が宇津利三郎から原告を通さず直接買い受けたものであると主張する。しかし、成立に争いのない甲第六三、第六七号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第四九号証、弁論の全趣旨に照らすと、一八番四の土地外二筆の土地の売買契約書、農地法の申請書には、いずれも売主宇津利三郎、買主原告との記載があって、一八番四の土地は原告名義で所有権移転登記を了しており、しかも宇津は黒川が土地を買い受けることについては全く認識せず、黒川との間に売買代金等の折衝をしたこともなかったこと、原告の帳簿に記載されている四月五日付の「黒川様土地代金二〇〇万円」との記載は、原告が自己が買い受けた一八番四の土地の一部を黒川に売却していることを示すものであることなどの事実、及び後示四1(三)へ認定の各事実に照らすと、一八番四の土地は被告主張のとおり、原告が宇津から買い受けたものであり、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一七号証の一~五、第三七号証の一、二、弁論の全趣旨によると、原告はこれを、被告主張の金額で黒川に売り渡したものであると認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠がない。その詳細な説示は後示五1(三)(2)イ~ホのとおりである。
ト 買主奥田昭治分(別表裁二の4の(2)-7) 被告は同表記載のとおり、奥田昭治に対する土地の売上を三九〇万円と主張するのに対して、原告はこれを三七七万円と主張しているが、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一七号証の一~五、第一五一号証、弁論の全趣旨によると、被告主張のとおりの売上金額を認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。
チ 買主福島環分(別表裁二の4の(2)-9) 被告が土地の売上が昭和四七年に六二〇万円としているのに対して、原告はこれが六二九万円であると主張し、被告は建築の売上は昭和四八年の売上であると主張し、原告はこれを昭和四七年の売上であると主張して争っている。
弁論の全趣旨により成立が認められる乙第四一号証、弁論の全趣旨によると、土地の昭和四七年分の売上金額が六二〇万円であることを認めることができ、本件全証拠によるも、他にこれを覆すに足る証拠がない(なお、建築売上年度については後記(一)(1)ヲで認定)。
リ 買主今井昭子分(別表裁二の6の(8)-2) 被告が同表被告欄記載のとおり建築の売上として五〇〇万円を計上しているのに対して、原告はこの売上を主張しないで、単に否認しているが、成立に争いがない乙第一五五号証の一、二、弁論の全趣旨によると、同表被告欄記載のとおりの売上があったことを認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。
ヌ 買主京都府土地開発公社分(別表裁二の6の(8)-3) 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一四七号証、弁論の全趣旨により、同表被告主張欄記載のとおり昭和四七年に長岡京市井ノ内西ノ京一四-三八の土地で二五万二、四〇六円の売上があったことを認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がないし、原告はこの売上を全く主張していない。
ル 買主奥村泰一分(別表裁二の6の(8)-4) 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一四八号証、弁論の全趣旨により、同表被告主張欄記載のとおり昭和四七年に長岡京市井ノ内西ノ京一四-三八の土地上の建物を同人に売却して、控え目にみても、一三七万一、〇〇〇円(工事代金一二〇万円+自宅追加工事代金一七万一、〇〇〇円)の売上があったことを認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がないし、原告はこの売上を全く主張していない。
ヲ 買主福島環分(別表裁二の7の(2)-9) 被告が建築の売上を昭和四八年の売上であると主張し、原告はこれを昭和四七年の売上であると主張して争っているが、前示乙第四一号証、弁論の全趣旨によると、建物の登記が昭和四八年三月になされており、一般に、登記と引換に代金支払いがなされるのが通例であること、また、特段の事情がない限り、住民票の移転時期と近接した時期に建物の現実の引き渡しがあったものとみるのが相当であることに照らすと原告の主張は採用できず、被告主張のように建築の売上は昭和四八年の売上であるというべきであり、四四〇万円の建築の売上があったことが認められ、本件全証拠によっても、他にこれを覆すに足る証拠がない。
ワ 買主玉井重幸分(別表裁二の7の(2)-12) 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第二一号証、弁論の全趣旨によると、売上金額は土地が八三〇万円、建物が六二九万六、八五〇円であることが認められる。原告は、これを七一三万四、九〇〇円、七四六万一、九五〇円であると主張するが、裏付け証拠もなく、遽かに採用し難いし、他に右認定を覆すに足る証拠がない。
(2) 「B」方式について
被告は、前示事実摘示第二の二(四)(1)イ(ロ)のとおり、B方式では、別表乙二によって算出した平均的建物一平方メートル当たりの売上金額を基礎数値として建物売上金額を算出し、土地に係る売上金額は調査によって把握した土地及び建物の売買総額から右建物の売上金額を差し引いた残額であるとしている。
イ 推計の基礎数値の正確性
別表乙二の基礎とされている売上実例六件の建物売上金額のうち、別表裁二の1の(4)-3、及び、裁二の4の(2)-7の売上金額については、当事者間に争いがないが、原告は、その余の別表裁二の1の(4)-1、(4)-4、乙二の4の(2)-9、乙二の7の(2)-12の四件が、原告の調査した実額と異なると主張しているので、その当否について検討する。
(イ) 買主河音久子分(別表裁二の1の(4)-1)は、前示(1)ロのとおり、被告主張の別表裁二の1の(4)-1の被告主張欄記載のとおり、昭和四六年分の建物売上額は六二四万円であることが認められ、原告の主張が採用できない。
(ロ) 買主三浦圭一分(別表裁二の1の(4)-4)は、前示(1)ハのとおり、原告主張のとおり、土地の単価が坪当たり九万円、即ち、平方メートル当たり単価が二万七、二五六円であると認めるのが相当であって、これが平方メートル当たり二万九、一二〇円であるとの被告主張に副う前示乙第四七号証の記載の一部は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに採用し難く、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。
(ハ) 買主玉井重幸分(別表裁二の7の(2)-12)について、これは、前示(1)ワのとおり、この売上金額は、被告が主張する土地が八三〇万円、建物が六二九万六、八五〇円であることが認められる。
ロ 推計方法の合理性
(イ) 原告は、被告が売上実例六件はアパート、工場等の一般木造住宅の範囲に入らないものを除いたものであると主張しているのに、これに当たらない例えば別表裁二の3(2)-5の買主加藤倭彦の売買実例が理由もなく除外されていると反論しているが、これは、「A」方式により実額で計上されており、その売上額については当事者間に争いがないから、これを「B」方式に加えなかったと思われ、本件全証拠によっても、とくに被告が恣意的にこれを加えなかったものとは認められないし、仮に、これを加算するとしても、別表乙三のとおり、これにより、別表乙二との間にとくに著しい数値の変動があるとはいえないので、別表乙二に基づく被告主張のB方式による推計が合理性を失うものとはいえない。
(ロ) 原告は、原告の一般木造住宅の建築は、建売住宅建築ではなく、顧客の注文による注文建築とほぼ同じものであって、内装、設備、設計につき顧客の申出、注文を受けて建築したものであるから、被告の推計により算出した建築価額より相対的に建築費は高額であると主張するが、本件全証拠によっても、原告の一般木造住宅建築が、建売住宅建築と著しく異なることを認めるに足る的確な証拠がない。したがって、原告の主張は採用できず、これをもって「B」方式の合理性を覆すことはできない。
ハ 個別的合理性の検討
(イ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-一〇買受人小島テルの土地建築分(別表裁二の1の(1)-1)被告が別表乙五-1の(1)-1の推計により、土地が一六八万二、一〇〇円、建築が二八六万七、九〇〇円でいずれも昭和四六年の売上であると主張するのに対して、原告は昭和四五年一二月に引渡しを行った旨主張し、土地の登記が昭和四六年一月二八日になったのは、伏見信用金庫の仮登記の抹消登記の関係であって、これは、昭和四五年の売上であると主張して争っている。
弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三二号証によると、登記が昭和四六年一月二八日に行われており、代金支払いの完了と同時に仮登記などを抹消のうえ所有権移転登記を行い引渡しを行うのが不動産取引の常識であるから、原告主張のように他人名義の仮登記が抹消できる一ヵ月も前に代金支払いを完了したということは不自然で、これを認めるに足る特段の事情の立証もない。
(ロ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-一六買受人萩野昭男の土地建築分(別表裁二の1の(1)-3)被告が別表乙五-1の(1)-3の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第三二号証に基づき、昭和四六年の売上として、土地が二二〇万四、九一六円、建築が二七九万五、〇八四円であると主張するのに対して、原告は、その売却土地につき、四・〇二平方メートルという地積の一筆を脱落するという誤りを犯しているので売上金額の按分の方法に合理性、客観性がないと主張している。しかし、B方式による推計はまず建物の売上金額を算定し、売上総額から建物の売上金額を差し引いて土地の売上金額を算定するものであるから、仮にこのような脱落があったとしても、土地の売上金額及び建築売上金額が変動することはないので、原告の主張は理由がない。
なお、成立に争いがない乙五号証の九によるとこの売買土地は五五平方メートルであって、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証によると、原告主張の脱落部分は右売買の後に軒下部分を売買対象に追加したが、その対価は支払われなかったものであることが認められる。したがって、被告の右主張の推計には合理性があり、右売上を認定できる。
(ハ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-一七買受人大槻栄太郎の土地建築分(別表裁二の1の(1)-4) 被告が別表乙五-1の(1)-4の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第三五、第三六号証に基づき、昭和四六年の売上として、土地が二二〇万四、九一六円、建築が二七九万五、〇八四円であると主張するのに対して、原告は土地、建物の売上総額を認めるが、その按分を争い、土地が一五二万七、三四〇円、建物が三四八万二、六六〇円であると主張し、その売却土地につき四・七〇平方メートルという地積の一筆を脱落するという誤りを犯しているので売上金額の按分の方法に合理性、客観性がないと主張する。しかし、B方式による推計はまず建物の売上金額を算定し、売上総額から建物の売上金額を差し引いて土地の売上金額を算定するものであるから、仮にこのような脱落があったとしても、土地の売上金額及び建築売上金額が変動することはないので、原告の主張は理由がない。
なお、成立に争いがない乙五号証の一〇によるとこの売買土地は五八平方メートルであって、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証によると、原告主張の脱落部分は右売買の後に軒下部分を売買対象に追加したが、その対価は支払われなかったものであると認められる。
したがって、被告の右主張の推計には合理性があり、右売上を認定できる。
(ニ) 長岡京市調子二丁目二五-一六買受人仲野三郎の土地建築分(別表裁二の2の(6)-2) 被告が別表乙五-1の(6)-2の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五一号証の一に基づき、昭和四六年分の売上として、土地が二三二万四、九二〇円、建築が三一七万五、〇八〇円と主張するのに対し、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地を二一三万四、〇〇〇円、建築を三三六万六、〇〇〇円であると主張して、その按分を争っている。原告は、同所二五番一五の土地、建物に関する伊藤英吉分につき、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五〇号証(電話聴取書)により、その物件が安かったという回答を根拠として被告が土地額への割り振りをしているのは不当で、推計の合理性がないというが、被告は建物価額を算定した上で、その余を土地価額としていることが明らかであって、原告の主張はその前提において失当であり、被告の右主張の売上額を認定するのが相当である。
(ホ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-一九買受人山本正彦の土地建築分(別表裁二の3の(1)-5) 被告が別表乙五-1の(1)-5の推計により、成立に争いがない乙第一四号証の一、二に基づき、昭和四六年の売上として、土地が二五一万一、〇八九円、建築が二九八万八、九一一円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が一五七万二、八〇〇円、建築が三九二万七、二〇〇円であると主張して、その按分を争う。被告はこの土地、建築の各売上金額をまず平均的な建物の一平方メートル当たりの単価に基づき建物の売上金額を算出し、これを土地建物の売上総額から差し引いて土地の売上金額を推計している。これに対し、原告は、甲第五四号証、第九七号証の二により土地の坪単価の実額が八万円であると主張するが、同各号証はいずれも訴訟提起後作成されたものであり、とくに甲第五四号証は取引から一〇年以上経過した昭和五八年に作成したものであって、その正確性に疑問があり、両号証とも遽かに措信し難いし、そもそも推計の合理性を実額をもって争うには、前示のとおり、売上金額、売上原価、必要経費などの全額につき実額を主張して、所得金額の実額を主張立証する必要があり、推計の過程の一つである売上金額の一部のみを実額をもって争うことはできないから、主張自体失当でもあり、被告の右主張の売上額を認定すべきである。
(ヘ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-二一買受人西村昌夫の土地建築分(別表裁二の3の(1)-6)被告が別表乙五-1の(1)-6の推計により、成立に争いがない乙第一六号証に基づき、昭和四六年の売上として、土地が二三四万一、〇八九円、建築が二九八万八、九一一円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が一五九万三、六〇〇円、建築が三七三万六、四〇〇円であると主張して、その按分を争っている。被告の推計の方法、これに対する原告の反論及びこれに対する当裁判所の判断は前示(ホ)のとおりであって、被告主張の右売上額を認定すべきものである。
(ト) 長岡京市調子二丁目二五-一五買受人伊藤英吉の土地建築分(別表裁二の5の(6)-3) 被告が別表乙五-1の(6)-3の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五〇号証に基づき、昭和四七年分の売上として、土地が二四二万四、九二〇円、建築が三一七万五、〇八〇円と主張するのに対して、原告は、土地、建築の売上総額を認めるが、土地を二一二万八、二六九円、建築を三四七万一、七三一円であると主張して、その按分を争っている。原告は、この土地、建物に関する伊藤英吉買受分につき、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五〇号証(電話聴取書)により、その物件が安かったという回答を根拠として被告が土地額への割り振りをしているのは不当で、推計の合理性がないというが、被告は建物価額を算定した上で、その余を土地価額としていることが明らかであって、原告の主張はその前提において失当であり、被告の右主張の売上額を認定するのが相当である。
(チ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-一八買受人林清の土地建築分(別表裁二の7の(1)-7) 被告が別表乙五-1の(1)-7の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第一三号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が二七八万九、二〇九円、建築が三一一万〇、七九一円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、この売上が昭和四七年分であると主張して、その収入計上時期を争っている。原告は、この土地建物を昭和四七年七月中に引き渡している旨主張するが、これを認めるに足る的確な証拠がないし、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一三号証、第五号証の一一によると被告主張のとおり昭和四八年分の売上と認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。原告は、また、伊藤隆や小島テルヘの土地売価や地価公示基準値を示す成立の争いのない甲第一一〇号証を提出して、これらと比較すると、土地価額への按分が高すぎると主張するが、当該土地の個別的事情を無視して、単に近隣の坪単価のみの比較により土地価額の多寡をいうのは疑問であるし、公示地価が実際の取引額より相当低額であることは公知の事実であるから、原告の主張は採用できず、被告の右売上年分、売上額を認定すべきである。
(リ) 京都市西京区大原野上羽町一〇-二〇買受人幡富三の土地建築分(別表裁二の7の(1)-8) 被告が別表乙五-1の(1)-8の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第一五号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が五六三万八、四二八円、建築が三八六万一、五七二円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が三〇〇万円、建築が六五〇万と主張して、その按分を争っている。被告の推計の方法、これに対する原告の反論、及び、これに対する当裁判所の判断は前示(ホ)のとおりであって、被告主張の右売上額を認定すべきものである。
(ヌ) 長岡京市長法寺中畠一八-二三買受人田辺歳孝の土地建築分(別表裁二の7の(2)-11) 被告が別表乙五-1の(2)-11の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第二〇号証に基づき、昭和四八年分の売上を、土地が一、四四八万二、五四六円、建築が一、〇〇三万六、三五四円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が一、〇五八万九、四〇〇円、建築が一、三九二万九、五〇〇円と主張して、その按分を争っている。
被告はこの土地、建築の各売上金額をまず平均的な建物の一平方メートル当たりの単価に基づき建物の売上金額を算出し、これを土地建物の売上総額から差し引いて土地の売上金額を推計している。これに対し、原告は、甲第五四号証により土地の坪単価の実額を主張してその推計の合理性を争うが、同号証は取引から一〇年以上経過した昭和五八年に作成したものであって、その正確性に疑問があり、遽かに措信し難いし、そもそも推計の合理性を実額をもって争うには、前示のとおり売上金額、売上原価、必要経費などの全額につき実額を主張して、所得金額の実額を主張立証する必要があり、推計の過程の一つである売上金額の一部のみを実額をもって争うことはできないから、主張自体失当でもあり、被告の右主張の売上額を認定すべきである。
(ル) 長岡京市長法寺中畠一八-二七買受人矢本工業株式会社の土地建築分(別表裁二の7の(2)-13)被告が別表乙五-1の(2)-13の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第四三号証に基づき、昭和四八年分の売上を、土地が六六一万七、一二五円、建築が四三八万二、八七五円であると主張するのに対し、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が四七一万八、〇〇〇円、建築が六二八万二、〇〇〇円と主張して、その按分を争っている。
被告の推計の方法とその合理性、これに対する原告の反論の失当なことは前示(ホ)(リ)と同様であって、被告の右主張の売上額を認定すべきである。
(ヲ) 長岡京市長法寺中畠一八-二八買受人市田晧一郎の土地建築分(別表裁二の7の(2)-14) 被告が別表乙五-1の(2)-14の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第二二号証の一、成立に争いがない乙第二二号証の二に基づき、昭和四八年分に売上として、土地が六〇〇万九、二二八円、建築が四二九万〇、七七二円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が四七一万八、〇〇〇円、建築が六二八万二、〇〇〇円であると主張し、甲第五七号証、第九七号証の六を提出して、その按分を争っている。
被告はこの土地、建築の各売上金額をまず前示(ル)の矢本工業株式会社の建物の一平方メートル当たりの単価に基づき建物の売上金額を算出し、これを土地建物の売上総額から差し引いて土地の売上金額を推計している。これに対して、原告は、甲第五七号証、第九七号証の六により土地の坪単価の実額を主張してその推計の合理性を争うが、同各号証はいずれも訴訟提起後作成されたものであり、とくに、甲第五七号証は取引から一〇年以上経過した昭和五八年に作成したものであって、その正確性に疑問があり、遽かに措信し難いし、そもそも推計の合理性を実額をもって争うには、前示のとおり売上金額、売上原価、必要経費などの全額につき実額を主張して、所得金額の実額を主張立証する必要があり、推計の過程の一つである売上金額の一部のみを実額をもって争うことはできないから、主張自体失当でもあり、被告の右主張の売上額を認定すべきである。
(ワ) 長岡京市長法寺中畠一八-二九買受人藤井信次の土地建築分(別表裁二の7の(2)-15) 被告が別表乙五-1の(2)-15の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第四四号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六四一万七、一二五円、建築が四三八万二、八七五円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が四七一万八、〇〇〇円、建築が六二八万二、〇〇〇円であると主張し、甲第五七号証、第九七号証の六を提出してその按分を争っている。
この土地建物の被告の推計方法とその合理性、原告の反論とその理由のないことは前示(リ)(ニ)と同様であって、被告の右主張の売上額を認定すべきである。
(3) 「C」方式について
イ 「C」方式の合理性については、当事者間に争いがない。
ロ 長岡京市長法寺中畠一八-二二買受人多田清之助の土地建築分(別表裁二の7の(2)-10) 被告が別表乙五-2の(2)-10のとおり別表裁二の7の(2)-9の買受人福島環の取引単価(その正当なことは前示(1)「A方式」ヲのとおり)を基に推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第四二号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六〇九万二、二七六円、建築が四五六万二、七二四円であると主張するのに対して、原告は土地、建築の売上総額を認めるが、土地が六一〇万二、二七六円、建築が四五五万二、七二四円と主張して、その按分を争っている。
前示第四二号証、弁論の全趣旨及びその合理性については前示のとおり当事者間に争いがない右C方式の推計によると、被告主張の右売上金額はこれを相当として認定することができ、これに反する原告主張の売上額を認めるに足る的確な証拠がない。
(4) 「D」方式について
イ 推計の基礎数値の正確性
原告は、被告主張の金額実例のうち、別表裁二の1記載の(4)-4三浦圭一、別表裁二の7記載の(2)-12玉井重幸の実例は原告の調査した実額と大きく異なると主張する。しかし、買主三浦圭一分は前認定前示(1)ハ、(2)イ(ロ)のとおり、原告主張の土地が三七四万四、〇〇〇円であり、建物が四〇八万円であると認められ、買主玉井重幸分については、前認定(1)ワ、(2)イ(ニ)のとおり、被告主張のように、土地が八三〇万円、建物が六二九万六、八五〇円であることが認められ、これと異なる原告主張の金額が取引実額であると認めるに足る的確な証拠がない。
ロ 推計の方法の合理性
(イ) 売買実例除外の当否 原告は、被告が、原告の土地販売実例から、別表裁二の3記載の(1)-2伊藤隆、別表裁二の4記載の(2)-7奥田昭治、別表裁二の6記載の(8)-3京都府土地開発公社、別表裁二の7記載の(3)-2安井一夫、別表裁二の8記載の(4)-6三浦圭一を理由なく恣意的に除外して、他の一一例のみを選定していると主張し推計の合理性を争うが、弁論の全趣旨に照らすと、買主伊藤隆分は、他地域のものであり、買主奥田昭治分は、当初推計で計上しており、その後の調査額も間接資料であって、取引実額が把握できなかったためであること、買主安井一夫分は建物の床面積が広く建売住宅とはいえないこと、買主三浦圭一と買主京都府土地開発公社分とは地積が狭く建売住宅の部類に属しないことなどを理由として、特殊なものを除外して推計が行われたものであると認められるから、それ自体必ずしも不合理なものではないし、原告が帳簿書類などを提出せず、前認定のとおり推計の必要性が認められる以上、これらを除外してした本人率による推計が合理性がないとはいえない。
(ロ) 売上差益率(別表乙四の2) 原告は、土地売上実例を基礎として平均的な土地売上価額を取得原価で除した土地一平方メートル当たりの売上差益率を算定しているが、売上実例一一のうち、別表裁二の1記載の(4)-5の京都府への売買実例に限って土地一平方メートル当たりの売買差益率が一一六・三六という異常なものが混入している。他の実例一〇の差益率は最低一五パーセントから六八パーセント内である。このような異常な一例を平均値を出す基礎に加えるのは不当である。京都府への売買実例は、この細長い土地全体が公道に面していたため、京都府が小川改修工事に伴い公道を拡幅する必要から、高額な金額で買い入れたものであって、これを他の一般の売買価額の推計の基礎に算入することは不当である、と主張する。これに対して、被告は、原告の売買差益率を推計する場合には、原告の土地の売買実例のうち、特殊な事例を除外した取引事例の一群の機械的平均値をもって推計の基礎数値とすることは、やむを得ないものであり、その結果算定された売買差益率の高低により、推計の基礎とするか否かを判断すべきでないと主張している。
なるほど、平均値は基礎数値の多寡を平均化して算出されるもので、その多寡によりこれを当初から算出しないとすれば、平均値や推計値を求めることと矛盾するともいえそうにみえる。しかし、資料の変量の中に、極端に大きな値とか、極端に小さな値があるときなど、特異な値があると、算術平均値は集団の特徴を代表する値としては不適当であることが多い。このような場合には変量を大きさの順に並べて中央にくる値、即ち、中央値、又は最も多い度数に対応する変量、即ち、最頻値を用いるべきことは、統計学の初歩的知識である。
そして、推計課税における所得金額の推計に用いられている推計の手法は、いわゆる推計学の場合と異なり、母集団から抜き出した標本(資料)の数が極端に少なく、むしろ、求める事業との業種、事業規模、地域などとの類似性の強さを根拠に、その資料の少なさを補充し、しかも、推計学にいわれている平均値からのばらつきの状況(母分散)を示す標準偏差値とその信頼度を用いて、極端な数値が信頼の範囲から除外される計算方式、数理をとらず、算術平均をもって、推計値としているのであるから、その基礎数値の正確さと求める事業、取引事例との強い類似性の確保が必要であり、また、その信頼度を民事裁判の事実認定に必要な高度の蓋然性がある程度に維持するためには、前示中央値、最頻値の主張立証がない以上、特異な数値を除いて、控え目な平均値を求めるほかない。
そして、前示原告主張のとおり、別表裁二の1記載の(4)-5の京都府への売買実例では土地一平方メートル当たりの売買差益率が一一六・三六であることは当事者間に争いがなく、これが他の実例一〇の差益率が最低一五パーセントから六八パーセント内であるのと比較して異常に高いことは、計数上明らかである。これは、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨に照らし、京都府へ売却した土地全体が公道に面していたため、京都府が小川改修工事に伴い公道を拡幅する目的で、とくに高額な金額で買い入れたものであることが認められ、これを他の通常の売買価額の推計の基礎数値に算入することは不当であるというべきである。
(ハ) まとめ
前示ロ(ハ)の京都府の数値を除外して、この実例を除外すると、売買差益率は、別紙裁四のとおり平均三六・九七ないし三七・一四パーセントとなる。
ハ 個別的売上額の検討
(イ) 長岡京市今里野添一丁目三四番地買受人奥村泰一の土地建築分(別表裁二の1の(3)-1) 被告は、これを当事者間に争いがない別表裁二-7(3)-2の安井一夫に対する土地販売価額の一平方メートル当たりの単価四万八、二九七円を市街地価格指数により時点修正し、それに地積を乗じて算出したものである。建築価額も右同安井一夫に対する建物売上価額の一平方メートル当たりの単価六万一、八〇二円を建築費指数により時点修正して算出したものであって、この推計方法には合理性が認められ、他にこれを動かすに足る証拠がない。これに対して原告は、甲第三五、第三六号証を提出して、その実額を主張し、いわゆる実額反証により推計の合理性を争うが、前示のとおり実額反証による推計の合理性を争うためには、売上金額、売上原価、必要経費の全部について、その実額を主張立証して、所得金額の実額を立証しなければならず、その推計の経過の一つである売上額の一部の実額を主張立証してこれを争うことは許されないから、原告の主張はそれ自体失当であり、被告主張の売上額の推計は相当である。
(ロ) 長岡京市井ノ内西ノ京一四の一六買受人渡辺則夫の土地建築分(別表裁二の1の(4)-2) 被告は、これを別表乙六の1の<4>-1の同所B物件の仕入単価を土地基準単価として別表乙五の3の(4)-2のとおりの計算をして推計したものであって、この仕入額、したがって、仕入単価は後示五2(六)のとおり、その推計の合理性が認められるが、それを基準として土地売上金額を適用単価×地積×(売上差益率四四・一九%+一)として計算している点は、前示のとおりこの差益率は京都府への売却分を除外することにより、別表裁四のとおり四六年九月期が三六・九七%であるから、これにより計算すると、土地の売上額は、三一三万七、九六四円となり、被告の渡辺則夫分の土地の売上額の推計の一部はこの点で合理性を欠くので、同人分の昭和四六年土地売上金額は三一三万七、九六四円であると認定する。
そして、同人分の別表乙五の3の(4)-2の推計は、弁論の全趣旨に照らし合理性があるから、これを三四〇万七、五四一円であると認めることができる。
なお、これに対して、原告は、乙第一四六号証を援用してその土地、建築の売上実額を六二九万五、〇〇〇円であると主張するが、実額反証は前示のとおり、推計の過程にあるその売上額の一部のみを主張してすることはできず、その主張自体失当であるし、そもそも、乙第一四六号証によると、右渡辺の妻はこの土地建物の売買総額は六二九万五、〇〇〇円でなく、これが六四〇万円から六五〇万円程度であったと回答しており、原告の右主張は理由がなく、前示裁判所の土地建物の認定総額は、六五四万五、五〇四円となっており、この回答によく符号するものであって、その合理性が裏付け得る。
(ハ) 長岡京市調子二丁目二五-四の買受人今村建三の土地建築分(別表裁二の2の(6)-1) 被告が、別表乙五の3のとおり、別表裁二の2の(6)-2の同所二五-一六買受人仲野三郎の土地の取引単価三万六、二三六円(2,324,920÷64.16=36,236)に、成立に争いがない乙一一号証の一により認められる今村の買受面積六七・五七平方メートルを乗じて、算出した金二四四万八、四六六円をもって土地の売上額と認めることができる。なお、被告はこれを二四四万八、三九八円としているが、これは単なる計算過誤であると認められる(36,236×67.57=2,448,466.5)。
なお、建築の推計は、弁論の全趣旨に照らし、別紙乙五の3の(6)-1の推計方法に合理性がある。
(ニ) 大山崎町字大山崎小字谷田七七-七買受人真鍋宗平の建築分(別表裁二の6の(7)-8) この売上金額が被告主張のとおり三九四万〇、八一三円であって、その推計に合理性があることについては当事者間に争いがない。
(5) 「E」方式について
イ 推計方法の合理性
この「E」方式の推計の合理性については、当事者間に争いがない。
ロ 個別的合理性
(イ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション二階買受人板倉泰明の土地建築分(別表裁二の4の(5)-3) 被告が別表乙五-4の(5)-3の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五五号証に基づき、昭和四七年分の売上として、土地が五六万五、七九八円、建築が三八三万四、二〇二円と主張するのに対し、原告は、土地を四七万一、七八〇円、建築を三九二万八、二二〇円であると主張して、これを争っている。被告は、この西ノ京マンションの土地、建物の売上金額の算出について他にマンションの売買実例がないため、まず、平均的な土地一平方メートル当たりの売上価額に地積を乗じて土地の売上価額を算出して、建築に係る売上金額は、売上総額から右土地の売上金額を差し引いて算出する按分方法により推計をしている。これに対して、原告は、甲第五六号証により土地の単価の実額が異なると主張するが、同号証は、原告が訴訟提起後作成されたものであるし、実際の取引から一〇年以上も経過した昭和五八年に作成されたもので、その正確性には疑問があり、遽かに措信できないし、そもそも推計の合理性を実額をもって争うには、前示のとおり、売上金額、売上原価、必要経費などの全額につき実額を主張して、所得金額の実額を主張立証する必要があり、推計の過程の一つである売上金額の一部のみの実額をもってその合理性を争うことはできないから、主張自体失当でもある。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-3の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-3のとおり、土地が五三万七、四六六円、建物が三八六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(ロ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション三階買受人北村喜代子の土地建築分(別表裁二の4の(5)-4) 被告が別表乙五-4の(5)-4の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第二六号証に基づき、昭和四七年分の売上として、土地が五六万五、七九八円、建築が五一三万四、二〇二円と主張するのに対し、原告は、土地を四七万一、七八〇円、建築を三三二万八、二二〇円であると主張して、これを争っている。被告の推計の方法、これに対する原告の主張及びその提出の甲第五六号証が採用できないものであることは前示(イ)のとおりである。なお、原告は、その売上金額が他の売買例との間に均衡を失するとも主張するが、被告が提出する前示乙第二六号証は契約書であって、これに基づき各売上の実額を主張するものでもあるので、それは主張自体理由がないものである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-4の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-4のとおり、土地が五三万七、四六六円、建物が五一六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(ハ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション三階買受人水戸清の土地建築分(別表裁二の4の(5)-5) 被告が、別表乙五-4の(5)-5の推計により、昭和四七年分の売上として、土地が五六万五、七九八円、建築が三、七三四、二〇二円と主張するのに対して、原告は、土地建物の売上総額を争わないが、土地を四七万一、七八〇円、建築を三八二万八、二二〇円であると主張して、その按分を争っている。被告の推計の方法とこれに対する原告の主張及びその提出の甲第五六号証が採用できないものであることは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-5の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-4のとおり、土地が五三万七、四六六円、建物が三七六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(ニ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション三階買受人大谷謙二の土地建築分(別表裁二の4の(5)-6)被告が別表乙五-4の(5)-6の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五六号証に基づき、昭和四七年分の売上として、土地が五六万五、七九八円、建築が三七三万四、二〇二円と主張するのに対し、原告は、土地建物の売上総額を争わないが、土地を四七万一、七八〇円、建築を三八二万八、二二〇円であると主張して、その按分を争っている。被告の推計の方法とこれに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないものであって、被告主張の右売上額を認定すべきことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-6の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-6のとおり、土地上が五三万七、四六六円、建物が三七六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(ホ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション四階買受人小林進の土地建築分(別表裁二の4の(5)-7) 被告が、別表乙五-4の(5)-7の推計により、成立に争いがない乙第二九号証に基づき、昭和四七年分の売上として、土地が五六万五、七九八円、建築が三一三万四、二〇二円と主張するのに対し、原告は、土地建物の売上総額を争わないが、土地を四七万一、七八〇円、建築を三二二万八、二二〇円であると主張して、その按分を争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないものであって、被告主張の右売上額を認定すべきことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-7の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-7のとおり、土地上が五三万七、四六六円、建物が三一六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(ヘ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション四階買受人江頭英雄の土地建築分(別表裁二の5の(5)-8) 被告が、別表乙五-4の(5)-8の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五八号証に基づき、昭和四七年分の売上として、土地が五六万五、七九八円、建築が三五三万四、二〇二円と主張するのに対し、原告は、土地建物の売上総額を争わないが、土地を四七万一、七八〇円、建築を三六二万八、二二〇円であると主張して、その按分を争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-8の推計では売買差益率としては四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-7のとおり、土地上が五三万七、四六六円、建物が三五六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(ト) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション一階買受人和泉頌二の土地建築分(別表裁二の8の(5)-9) 被告が、別表乙五-4の(5)-9の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第二五号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が四一三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、土地建物の売上総額を争わないが、土地を五二万四、二〇〇円、建築を四二七万五、八〇〇円であると主張して、その按分を争っている、被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないものであることは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は、本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-9の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが(なお、この取引は被告主張でも別表裁二の8の(5)-9のとおり、昭和四八年四月となっており、被告が昭和四八年三月期の四四・二〇パーセントを挙げるのは、誤りである)、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであり、また、修正率もそれに伴い同期の二四〇八/一三九三とすべきであるから、別表裁二の4の(5)-9のとおり土地が五三万七、四六六円、建物が四二六万二、五三四円の売上であると認めるべきである。
(チ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション一階買受人川村吉弘の土地建築分(別表裁二の8の(5)-10) 被告が、別表乙五-4の(5)-10の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五二号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が四一三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、これは昭和四七年分の売上であり、しかも土地が四七万一、七八〇円、建築が四三二万八、二二〇円であると主張して、その収入金計上時期及び売上の按分を争っている。弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五二号証(照会回答書)、成立に争いがない乙第一五二号証(住民票除票)によると、売買契約及び登記をしたのは昭和四八年であり、買受人のマンション入居も昭和四八年であり、この物件の引渡しは昭和四八年であると推認することができるから、これは被告主張のように昭和四八年の売上であると認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。また、売上金額に関する被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-10の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の4の(5)-10のとおり、土地が六三万四、四四九円、建物が四一六万五、五五一円の売上であると認めるべきである。
(リ) 長岡市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション二階買受人北浦正樹の土地建築分(別表裁二の8の(5)-11) 被告が、別表乙五-4の(5)-11の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五三号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三七三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、これは昭和四七年分の売上であり、しかも土地が四七万一、七八〇円、建築が三九二万八、二二〇円であると主張して、その収入金計上時期及び売上の按分を争っている。前示乙第五三号証(照会回答書)によると、売買契約及び登記をしたのは昭和四八年であると認められるから、この物件の引き渡しは昭和四八年であって、これは被告主張のように昭和四八年の売上であると推認することができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。また、売上金額に関する被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-11の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別紙裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-11とおり、土地が六三万四、四四九円、建物が三七六万五、五五一円の売上であると認めるべきである。
(ヌ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション二階買受人石村侔の土地建築分(別表裁二の8の(5)-12) 被告が、別表乙五-4の(5)-12の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五四号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三七三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、これは昭和四七年分の売上であり、しかも、土地が四七万一、七八〇円、建築が三九二万八、二二〇円であると主張して、その収入金計上時期及び売上の按分を争っている。前示乙第五四号証(照会回答書)によると、売買契約及び登記をしたのは昭和四八年であると認められ、この物件の引き渡しは昭和四八年であると推認できるから、これは被告主張のように昭和四八年の売上であると認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。また、売上金額に関する被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-12の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-12のとおり、土地が六三万四、四四九円、建物が三七六万五、五五一円の売上であると認めるべきである。
(ル) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション三階買受人水戸輝雄の土地建築分(別表裁二の8の(5)-14) 被告が、別表乙五-4の(5)-14の推計により、成立に争いがない乙第二八号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三六三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、これは昭和四七年分の売上であり、しかも、土地が四七万一、七八〇円、建築が三八二万八、二二〇円であると主張して、その収入金計上時期及び売上の按分を争っている。前示乙第二八号証(照会回答書)によると、売買契約及び登記をしたのは昭和四八年であると認められ、この物件の引き渡しは昭和四八年であると推認できるから、これは被告主張のように昭和四八年の売上であると認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。また、売上金額に関する被告の推計の方法と、これに対する、原告の主張及び甲第五六号証が信用できないものであって、被告主張の右売上額を認定すべきことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-14の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別紙裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-14のとおり、土地が六三万四、四四九円、建物が三六六万五、五五一円の売上であると認めるべきである。
(ヲ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション四階買受人高尾勇の土地建築分(別表裁二の8の(5)-15) 被告が、別表乙五-4の(5)-15の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五七号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三八三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、これは昭和四七年分の売上であり、しかも、土地四七万一、七八〇円、建築が四〇二万八、二二〇円であると主張して、その収入金計上時期及び売上の按分を争っている。弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第五七号証(照会回答書)によると、売買契約及び登記をしたのは昭和四八年であると認められ、この物件の引き渡しは昭和四八年であると推認できるから、これは被告主張のように昭和四八年の売上であると認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠がない。
また、売上金額に関する被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-15の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-15のとおり、土地が六三万四、四四九円、建物が三八六万五、五五一円の売上であると認めるべきである。
(ワ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション四階買受人森本載般の土地建築分(別表裁二の8の(5)-16) 被告が、別表乙五-4の(5)-16の推計により、成立に争いがない乙第五九号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が七七万八、二三五円、建築が五二二万一、七六五円と主張するのに対し、原告は、土地五二万四、二〇〇円、建築を三九五万五、八〇〇円であると主張して、これを争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
なお、原告はこの売上金額につき、他の売上金額との不均衡を挙げて反論をするが、被告は前示乙五九号証(契約書)に基づく売上金額を実額で主張しているものであるから、原告の右主張は採用できない。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-16の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六.九七パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-16のとおり、土地が七三万九、九三六円、建物が五二六万〇、〇六四円の売上であると認めるべきである。
(カ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション五階買受人泉義彦の土地建築分(別表裁二の8の(5)-17) 被告が、別表乙五-4の(5)-17の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第六〇号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が七七万八、二三五円、建築が三七二万一、七六五円と主張するのに対し、原告は、土地を五二万四、二〇〇円、建築を三九五万五、八〇〇円であると主張して、これを争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-17の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六.九七パーセントとすべきであり、別表裁二の4の(5)-17とおり、土地が七三万九、九三六円、建物が三七六万〇、〇六四円の売上であると認めるべきである。
(ヨ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション五階買受人堂本茂の土地建築分(別表裁二の9の(5)-18) 被告が別表乙五の4の(5)-17の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第六一号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三五三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、土地を五二万四、二〇〇円、建築を三六七万五、八〇〇円であると主張して、これを争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-18の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六.九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-18のとおり、土地が六三万五、〇三〇円、建物が三五六万四、九七〇円の売上であると認めるべきである。
(タ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション五階買受人行實順助の土地建築分(別表裁二の9の(5)-19) 被告が、別表乙五-4の(5)-19の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第六二号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三七三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、土地を五二万四、二〇〇円、建築を三八七万五、八〇〇円であると主張して、これを争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないものであって、被告主張の右売上額を認定すべきことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-19の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-19とおり、土地が六三万五、〇三〇円、建物が三七六万四、九七〇円の売上であると認めるべきである。
(レ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション五階買受人太泰秀男の土地建築分(別表裁二の9の(5)-20) 被告が、別表乙五-4の(5)-20の推計により、弁論の全趣旨に照らし成立が認められる乙第六三号証に基づき、昭和四八年分の売上として、土地が六六万七、八九〇円、建築が三七三万二、一一〇円と主張するのに対し、原告は、土地を五二万四、二〇〇円、建築を三八七万五、八〇〇円であると主張して、これを争っている。被告の推計の方法と、これに対する原告の主張及び甲第五六号証が信用できないことは、前示(イ)のとおりである。
ただし、被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-20の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであり、別表裁二の(5)-20とおり、土地が六三万五、〇三〇円、建物が三七六万四、九七〇円の売上であると認めるべきである。
(6) 「F」方式について
これは、被告において物件の土地及び建物の「売渡総額」自体の他の物件取引例により推定した金額であるが、原告は、何の合理性もなく、とりわけ、別表裁二の4記載の(5)-1の矢野の例(甲第四一号証)、同表乙(5)-2の小滝の例(甲第四二号証)、別表裁二の8記載の(5)-13宇野の例(昭和四八年の売上と主張)(甲第四四号証)ではその誤りが明らかであると主張している。
イ 推計方法の合理性
前認定のとおり、原告が帳簿書類などを提示せず推計の必要があると認められる以上、西ノ京マンションの売渡総額を同一マンション内の同一フロアの物件の取引例によって推認したもので、その推計方法には合理性がある。
ロ 個別的合理性の検討
(イ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション一階買受人矢野稜夫の土地建築分(別表裁二の4の(5)-1) 被告が、別表乙五の4(5)-1のとおりの推計により、昭和四七年分の売上として土地が五六万五、七九八円、建物が四二三万四、二〇二円であると主張するのに対して、原告は土地が四七万一、七八〇円、建物が三七二万八、二二〇円であると主張して、これを争っている。
a 原告は、次の二点にわたって推計の合理性を争うので、以下順次検討する。
(a) 被告は、この西ノ京マンションの土地、建物の売上金額の算出について他にマンションの売買実例がないため、まず、平均的な土地一平方メートル当たりの売上価額に地積を乗じて土地の売上価額を算出し、建築に係る売上金額は、売上総額から右土地の売上金額を差し引いて算出する按分方法により推計をしているが、これに対して原告は甲第五六号証により土地の単価の実額が異なると主張する。しかし、同号証は、前示のとおり、原告が訴訟提起後作成されたものであるし、実際の取引から一〇年以上も経過した昭和五八年に作成されたもので、その正確性には疑問があり、遽かに措信できないものであるし、そもそも推計の合理性を実額をもって争うには、前示のとおり、売上金額、売上原価、必要経費などの全額につき実額を主張して、所得金額の実額を主張立証する必要があり、推計の過程の一つである売上金額の一部のみの実額をもってその合理性を争うことはできないから、主張自体失当でもある。
(b) 被告は、原告の同一階の和泉頌二に売却した価額四八〇万円を基礎として、推計しているのに対して、原告は、甲第四一号証により、土地建物の売上総額を前示のとおり四二〇万円(土地・四七万一、七八〇円、建物・三七二万八、二二〇円)であり、原告が同一マンションの同一階の和泉頌二に売却した価額四八〇万円より安価であると主張する。これは、矢野が昭和四六年中に売買契約をしたこと、同人が当該マンションの電気工事業者であることから特別割引したと主張し、これに副う原告の供述もあるが(昭和六一年六月一七日実施の原告本人尋問調書一一丁裏~一二丁表)、この主張は被告の推計を実額をもって争ういわゆる実額反証に当たるもので、前示のとおり売上額の一部のみの実額をもって、推計の合理性を争うことはできないから、主張自体失当であるし、原告提出の矢野、小滝との売買契約書の契約日は昭和四七年であり、これと全く同一条件で販売した前示和泉への販売価額と大きく相違しているし、また、買主側の売買契約書は、矢野が昭和四八年一〇月に、当時の書類を転居とともに紛失して、保存していないため、甲第四一号証の正確性を確認する裏付け証拠もなく、遽かに措信できない。
b 売上額の判定
被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-1の推計では売買差益率として四四・一九を挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-1の裁判所認定欄のとおり、土地の売上は五三万七、四六六円、建物は四二六万二、五三四円であると認めるべきである。
(ロ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション一階買受人小滝以和生の土地建築分(別表裁二の4の(5)-2) 被告が、別表乙五の4(5)-2のとおりの推計により、昭和四七年分の売上として土地が五六万五、七九八円、建物が四二三万四、二〇二円であると主張するのに対して、原告は土地が四七万一、七八〇円、建物が三八二万八、二二〇円であると主張して、これを争っている。
a 原告は、前示(イ)と同趣旨の二点にわたって推計の合理性を争うので順次検討する。
(a) 被告の推計の方法、原告の実額主張の失当なこと、甲第五六号証の措信できないことは同(a)のとおりであり、(b) 被告の和泉頌二に売却した価額四八〇万円を基礎とした推計に対して、原告は、甲第四二号証により土地建物の売上総額を前示のとおり四三〇万円(土地・四七万一、七八〇円、建物・三八二万八、二二〇円)であり、原告が同一マンションの同一階の和泉頌二に売却した価額四八〇万円より安価であると主張する。その理由として前示(イ)のとおり小滝の早期契約、出入りの電気工事業者であることによる特別割引きを主張するが、前示(イ)のとおり、これに副う原告の供述が(昭和六一年六月一七日実施の原告本人尋問調書一一丁裏~一二丁表)、措信できず、また、この主張がいわゆる実額反証に当たるもので、売上額の一部のみの実額をもって、推計の合理性を争うことはできず、主張自体失当であること、原告提出の小滝との売買契約書の契約日は昭和四七年であり、これと全く同一条件で販売した前示和泉への販売価額と大きく相違しているし、また、買主側の売買契約書(甲第四二号証)の措信できないことは、前示(イ)のとおりである。
b 売上額の判定
被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-2の推計では売買差益率として四四・一九パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)のとおり別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九七パーセントとすべきであるから、別表裁二の4の(5)-2の裁判所認定欄のとおり土地の売上は五三万七、四六六円、建物は四二六万二、五三四円であると認めるべきである。
(ハ) 長岡京市井ノ内西ノ京、西ノ京マンション二階買受人宇野廸男の土地建築分(別表裁二の8の(5)-13) 被告が、別表乙五の4(5)-13のとおりの推計により、昭和四八年分の売上として土地が六六万七、八九〇円、建物が三七三万二、一一〇円であると主張するのに対して、原告は土地が五二万四、二〇〇円、建物が三七七万五、八〇〇円であると主張して、これを争っている。
a 推計方法の合理性など
被告の推計方法の合理性があることは、前示(イ)のとおりであり、売上額は、四四〇万円であることが認められ、原告の主張に副う甲第四四号証の記載は前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし、遽かに措信し難く、他にこの認定を覆すに足る証拠がない。
b 売上額の判定
被告は本件売上の推計にあたって、別表乙五の4の(5)-13の推計では売買差益率として四四・二〇パーセントを挙げているが、これは前示(4)ロ(ロ)及び別表裁四のとおり昭和四八年九月期の売買差益率は三六・九八パーセントとすべきであるから、別表裁二の(5)-13のとおり、土地の売上は六三万四、四四九円、建物は三七六万五、五五一円であると認めるべきである。
三 家具の売上金額について
家具の売上金額が、被告主張のとおり別表乙一の1~3の家具売上欄記載の金額であることは、当事者間に争いがない。
四 売上金額の総計
以上の認定に基づき、原告の売上金額を合計すると別表裁一の1ないし3の売上合計欄記載のとおり、昭和四六年分は金一億一、六二七万二、九八八円、昭和四七年分は金一億六、八〇三万四、五九四円、昭和四八年分は金二億〇、一七一万九、一二一円となる。
五 売上原価について
1 売上原価の推計の適否の検討
原告は被告が売上原価そのものを推計する誤りを犯している、しかも、その売上原価の算出方法が、推計した売上金額から売上利益率を割り出したものを基礎としているのだから、問題にならないと主張している。
しかしながら、原告が前認定のとおり税務調査に協力せず、帳簿書類等の提出を拒否し推計の必要性が認められる以上、売上原価についても、推計の方法により売上原価を算出することも当然許されるのであって、原告の主張は採用できない。
2 土地の売上原価の検討
被告は前示事実摘示第二の二2(五)(3)のとおり、土地の売上原価を別表乙一の1~3のとおり主張し、これは土地の仕入金額、棚卸金額の明細につき別表乙六の1~3、七の1、2被告欄記載の調査実額ないし推計によって算出したものであると主張するのに対して原告はその実額は別表乙六の1の原告欄記載の金額であり、その理由につき以下のとおり主張して、これを争っているので、その当否を順次検討する。
(一) 原告は、別表乙六-1の<1>-1の上羽義雄から仕入れた土地の仕入価額につき、被告が一、七二八万二、一五二円であると主張するのに対して、原告はこれを一、七二七万九、六五二円であると主張して争うが、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第七〇、第七一号証、弁論の全趣旨によると、この仕入価額が被告の主張のとおり一、七二八万二、一五二円であることが認められ、他にこれを覆すに足る証拠がない。
(二) 原告は、同表(別表乙六-1)の<1>-2の丸岡益太郎から仕入れた大原野上羽町一〇-二の山本正彦外六名に対する売却土地の仕入価額が、被告がその実額である推計の基礎数値として主張する一〇六万八、〇〇〇円ではなく、坪当たり一〇万円で計一七八万四、〇〇〇円であるといい、これは同土地を原告に転売した丸岡が譲渡益が大きすぎるので、これを圧縮するため、坪当たり五万九、〇〇〇余円の一〇六万八、〇〇〇円として申告したものと主張する。そして、成立に争いのない甲第四六号証(売買契約書)によると、原告は右丸岡との間で土地の売買代金は原告が後日売主丸岡の建築を請負い、その請負代金と相殺するとの特約をしている。
そして、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第四六、第四七、第一一一号証、弁論の全趣旨によると、その後原告は丸岡から建築を請負い、昭和四八年に完成させて請負代金の内金一七八万四、〇〇〇円をもって、前示土地売買代金と相殺したものと認めるのが相当であるから、この仕入価額は金一七八万四、〇〇〇円であり、これが売上原価であると認められ、これに反し被告の主張に副う乙第六八、第七〇号証の記載の一部は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信し難く、他にこれが被告の主張のように金一〇六万八、〇〇〇円であることを認めるに足る的確な証拠がない。
(三) 原告は、別表乙六の1の<2>の長岡京市長法寺中畠の土地二、八三二平方メートル(譲渡人宇津利三郎)につき、次のように主張する。
(1) この土地のうち、原告が宇津から買い受けたのは、一、八七七・二一平方メートルにすぎず、その余は、黒川龍男が宇津から直接買い受けたものである。即ち、原告は宇津から昭和四六年四月一六日、長岡京市長法寺中畠一六番地の二外二筆の田外合計二、八三二平方メートルのうち一、八七七・二一平方メートルを代金五、六八六万六、〇〇〇円で買い受け、黒川が右三筆の土地のうち、同所一八番地の一の一、三九五平方メートル中、原告購入以外の残余の土地部分九五四・七九平方メートルを二、八八〇万円で買い受けた(甲第六一号証)。しかし、この地目が田であったところから、農地転用許可の申請手続きを原告が黒川の分も含めて一括して行ったため、原告が全体の土地を代金八、五六六万六、〇〇〇円で買い受けたかのように契約書を作成して(甲第四九号証)、原告名義に所有権移転登記をし、その後、宅地転用手続きのうえ、黒川がその買い受けた土地部分を宅地として第三者へ転売した。もっとも、登記名義は中間省略登記により原告名義から買主に直接移転登記をしたので、黒川の名義は登記簿上にはでていないが、このように黒川が宇津から直接土地を買い受けたことは、黒川が宇津に代金を支払った日である昭和四六年四月一六日に、黒川が京都銀行から二、五〇〇万円を借用し、同銀行の根抵当権が黒川を債務者として設定されていることからも明らかであり(甲第一六号証)、自己が買い受けた土地(一六番地の二の全部、一七番地の一の全部、一八番地の一の一部)一八八・二一平方メートルの代金五、六八六万六、〇〇〇円を支払ったものである(甲六二号証の一~四)、と主張する。
(2) しかし、以下のとおり、被告の主張が正当であって、原告の主張は失当であると判断する。
イ 成立に争いがない甲第四九、第六三、第六七号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第四九号証によると、一八番四の土地外二筆の売買契約書(甲第四九号証)では、売主は宇津で買主は原告となっており、農地法の申請書も同様であり(甲第六三号証)、所有権移転登記も原告名義でなされている(甲第六七号証)。また、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第六二号証の四の「黒川様土地代金」とする四月五日の二〇〇万円の入金は原告が宇津から購入した一八番四の土地の一部を黒川に売却した代金の一部に外ならない。
ロ 弁論の全趣旨により真正な成立が認められる乙第一七号証の一~五、第三七号証、弁論の全趣旨によると、原告はその後一八番四の土地から同番五を分筆して、分筆後の一八番四の土地を別表裁二の3記載(2)-1のとおり原告が黒川龍男に三、三一四万一、〇五〇円で売却していることが認められる。
ハ 成立に争いがない甲第六八号証によると、原告は、分筆後の一八番五の土地を奥村泰一に売却しているのであって、これを原告は黒川が宇津から購入し直接奥村に売却したというが、一八番四の土地から一八番五の土地を分筆登記し、同土地の黒川の仮登記は、昭和四六年一二月二五日に抹消されているのに(同号証甲区三番)、その一一日後になって奥村に移転登記がなされている(同号証甲区四番)。もし、同土地が原告主張のように黒川から直接奥村に売り渡されたとすれば、分筆登記、仮登記と根抵当権の抹消登記、所有権移転登記を同時にし、代金を決済するのが取引の常識であるから、このように移転登記が一一日も遅れているのは、特段の事情がない限り、被告主張のように原告から黒川に売却され、これを黒川が奥村に転売したものというべきである。したがって、同土地は原告と黒川との間で金銭的な精算がなされて仮登記を抹消した後、奥村に売られたことを示すものと推認でき、この認定に反する甲第四〇号証の契約書の記載は仮装のものであるとの合理的疑いを払拭できず、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信し難いもので、他にこれを覆すに足る証拠がない。
なお、この黒川名義の仮登記の抹消と奥村への所有権移転登記が同時に行われず仮登記抹消の一一日後に移転登記がなされていることについて、原告は年末年始の官庁の休暇が挟まれていたため司法書士事務所の申請手続きの日時の遅れに過ぎないと主張するが、これに副う甲第六〇号証(奥村の陳述書)は裏付け証拠もないし、そもそも、前示分筆登記と仮登記抹消登記は昭和四六年一二月二五日であるが、官庁の年末年始の休暇は同月二九日から翌年一月三日までであって、所有権移転登記は年内に可能であるから、甲第六〇号証の記載は遽かに措信し難く、また、原告の右主張及び同号証の提出時期、原告の主張自体の変転、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信し難く、他に前認定を覆すに足る証拠がない。
なお、原告はこの点に関し、京都地方法務局と京都司法書士会との協議により表示登記は一二月一七日まで、権利に関する登記は、急を要するもの以外、一二月二二日までに提出する旨の申し合わせがなされており、本件は急を要するものでないので一月五日に所有権移転登記がなされたというが、本件分筆、住所変更、地目変更、仮登記抹消、根抵当登記抹消登記が一二月二五日になされていることに照らし、遽かに採用できない。
ニ 弁論の全趣旨により真正な成立が認められる甲第一〇〇号証では道路負担部分が黒川の負担であると読めるが、同甲第一〇八号証ではそれが原告の負担であることを示しているところ、原告は、その買い受けた一八番一のうち、一八番五の東側にある土地の北端の東西に細長い部分を、北隣に接する土地の所有者福西市郎、津田章良の強い申し出により、昭和四七年五月一六日、一八番一三、一八番一四に分筆して売却したため、原告の土地がそれだけ南北に狭くなって、その分が南側前面の道路として提供できなくなり、道路をその幅員だけ南北へずらして設計して造成した。その結果、黒川は一八番五の南端を道路負担部分として提供せず、その部分の面積だけ原告の土地が道路となった。したがって、別紙図面甲一(甲第一〇〇号証)が現実に合致しておらず、別紙図面甲二(甲第一〇八号証)が現実に合致したものであり、甲第一〇八号証のとおり、黒川は双方境界線を中心とする南北の道路の西側のみを負担し、その他の造成地全体の道路は全部原告が負担しているのであって、原告が甲第五七号証(甲第一〇〇号証と同一境界線を示す図面)は道路中心線を以て黒川との分割線であるという錯覚を犯したものであると主張する。
しかし、甲第一〇〇号証が原告主張のように錯覚により作成されたものであることは、本件全証拠によってもこれを認めるに足りないし、甲第一〇〇号証と第一〇八号証の縮尺を一致させて合成し、黒川の土地の地積八三四・三三平方メートル部分を特定してみると別紙図面裁一のとおりとなり、道路負担土地は甲第一〇八号証のとおり原告の負担となっているものと認められる。
このことからしても、原告が道路負担をしたうえ、直接奥村に売却したと推認でき、原告の主張する前示経緯については、黒川龍男が道路として提供を予定していたという南側道路予定部分は、すでに昭和四七年一月五日に奥村に売却ずみの中畠一八番五の土地の一部であり(甲第六七号証)、原告が奥村と黒川との売買契約書であるとして提出している前示甲第四〇号証にも道路予定地となることの記載がなく、また、原告が当初黒川が負担する予定であったという甲第一〇〇号証記載の内一八番五のうち道路予定地部分につき、奥村が一八番五を買い受けた直後、一八番一三と一八番一四の分筆(昭和四七年五月一六日)前の同年三月頃、道路予定地部分を含めた一八番五全部を敷地として原告に請け負わせて(甲第六〇号証)、居宅を建築し、同年五月三〇日に完成しており、これが現況と一致している(乙第一六八号証)。
ホ 以上のイないしハの事実に照らすと、別表乙六-1の<2>の長岡京市長法寺中畠の土地二、八三二平方メートル(譲渡人宇津利三郎)は、全部原告が宇津から買い受けたものであって、原告主張の一、八七七・二一平方メートルの外の土地も宇津から直接買い受けて、これを黒川龍男に転売したものであって、原告主張のように、黒川が宇津から直接買い受けたものではないというべきである。
したがって、原告の前示主張は採用できない。
ヘ 次に、被告が同表の<2>の土地全部の造成費を七〇七万一、五〇四円であると推計しているのに対して、原告は、造成費の実額は、土地全体で金八一〇万三、一一〇円、原告買受土地分は五三七万一、二〇〇円であると主張しているが、被告は、三越土地株式会社が造成した昭和四七年当時長岡京市今里野添の土地につき認められる一平方メートル当たりの造成費二、四九七円に地積を乗じて推計したものであって、その推計方法には合理性がある(計算方法は別表乙六-3)。原告は、右土地の造成が、三越土地の造成と比較して、造成規模が異なるため、道路舗装費が高くなる、ガス、水道工事費が元栓から開発地までの敷設費用が割高になる、原告は農業団体等への協力金を坪約一、〇〇〇円支出しているが、三越土地にはない等を挙げて、推計の合理性を争うが、本件全証拠をみてもこれを認めるに足る的確な証拠がないし、原告自身が前認定のとおり調査に協力せず、帳簿書類を提出しないため、推計の必要が認められる以上、そもそも、これらの事実のみでは、同業者率による推計の合理性を破る理由としては不十分である。
そして、原告は甲第一一二号証を提出して、造成費の実額を主張して推計の合理性を争うが、前認定のとおり推計の必要性が認められる以上、いわゆる実額反証により推計の合理性を破るためには、売上金額、売上原価、必要経費まですべてにわたって、事業所得金額を実額をもって、合理的疑いを容れない程度の高度の蓋然性をもって立証をすることを要するのであり、その一部である造成費などのみの実額をもって推計の過程の一部である造成費の額を争うことはできない。なお、これは全く実額反証にあたるものであるから、前示の推計の基礎となる標本(資料)の数値を実額であると被告が主要する売上額などに対し、その数値の実額を主張して争うのとは異なるのである。
(3) したがって、右土地の仕入価額を九、四七八万〇、五〇四円であるとした被告の推計は相当である。
(四) 別表乙六-1の<3>の長岡京市今里野添一丁目の土地(譲渡人野勢一) この仕入価額を被告が八〇五万六、四四六円であると主張するのに対し、原告は、物件の取得価額が六三二万五、〇〇〇円であることは認めるが、造成費に大きな差異があるので、仕入価額が異なるとして、仕入価額が九〇三万九、四七四円であると主張する。これは、被告が土地造成費について、隣接地である長岡京市今里野添の一平方メートル当たりの造成費二、四九七円(弁論の全趣旨により成立が認められる乙第七四号証の一、二)に地積を乗じて推計し(造成費の計算方法につき、別表乙六の3(二)の<2>)、仲介手数料は当該土地の譲渡人野勢が仲介業者に支払った手数料一〇万円をもとに推計し(弁論の全趣旨より成立が認められる乙第七三号証)、その他の費用も同人が支払った登記料、印紙代金二、五〇〇円であることから推計したものである。原告はこれに対して、実額を主張して推計の合理性を争うが、前示のとおり、推計の過程である造成費、その他の費用のみの推計の合理性を、実額をもって争うことはできないから、原告の主張は採用できない。
したがって、右土地の仕入価額を八〇五万六、四四六円とした被告の推計は相当である。
(五) 同表(別表乙六-1)の<4>-1の長岡京市井ノ打西ノ京の土地(A)(譲渡人岡本彦三郎、岡本武彦) この物件につき、被告が一、一六四万一、五〇〇円であると主張し、原告は土地の造成費、その他の費用が異なるとして、仕入価額を一、三二七万〇、三九〇円であると主張する。
被告はこれを昭和四五年及び四六年当時の長岡京市の一坪当たりの土地の平均的な造成費五、〇〇〇円に地積を乗じて推計し(弁論の全趣旨により成立を認める乙第七五号証)(造成費の計算方法につき、別表乙六の3(三)の<1>)、仲介手数料は、土地譲渡人の支払った仲介手数料、その他の費用は譲渡人の支払った登記手数料により推計したもので(弁論の全趣旨により成立が認められる乙第七六号証)、それには合理性がある。
原告はこれに対して実額を主張して推計の合理性を争うが、前示のとおり、推計の過程である造成費、その他の費用のみの推計の合理性を、実額をもって争うことはできないから、原告の主張は採用できない。
したがって、右土地の仕入価額を一、一六四万一、五〇〇円とした被告の推計は相当である。
(六) 同表(別表乙六-1)の<4>-2の長岡京市井ノ打西ノ京の土地(B)(譲渡人岡本彦三郎、岡本武彦、石田喜一郎) この物件につき、被告が二、四二五万〇、一二二円であると主張し、原告は土地の造成費、その他の費用が異なるとして、仕入価額を二、七二四万五、一〇〇円であると主張する。
被告はこれを昭和四五年及び四六年当時の長岡京市の一坪当たりの土地の平均的な造成費五、〇〇〇円に地積を乗じて推計し(弁論の全趣旨により成立を認める乙第八一号証)(造成費の計算方法につき、別表乙六の3(三)の<2>)、仲介手数料は、土地譲渡人の支払った仲介手数料、その他の費用は譲渡人の支払った登記手数料により推計したものであって(弁論の全趣旨により成立が認められる乙第七七、第八〇号証)、それには合理性がある。
原告はこれに対して実額を主張して推計の合理性を争うが、前示のとおり、推計の過程である造成費、その他の費用のみの推計の合理性を、実額をもって争うことはできないから、原告の主張は採用できない。
したがって、右土地の仕入価額を二、四二五万〇、一二二円とした被告の推計は相当である。
(七) 同表(別表乙六-1)の<6>の長岡京市調子二丁目の土地(譲渡人全京都建築協同組合) この土地の仕入価額を被告は三三〇万四、一七二円であると主張し、原告はその実額が五九一万八、七〇〇円であるとして争っている。被告はこの仕入額を長岡京市調子二丁目二五番一六の土地を原告が仲野三郎に売却した一平方メートル当たりの売上金額三万六、二三七円を基礎として、別表乙六の2のとおりの計算方式で推計したものでそれには合理性がある。
原告はこれに対して実額を主張して推計の合理性を争うが、前示のとおり、推計の過程である売上原価のみ推計の合理性を、実額をもって争うことはできないから、原告の主張は採用できない。なお、原告の実額として提出した譲渡人である全京都建設協同組合の売却価額実額の証明書(甲第五九号証)の「証明額」は昭和五八年九月八日付けであって、取引日の一三年後のものであり、当時原告は譲渡人組合の理事をしていたこともあって、それ自体も遽かに措信し難いものである。
したがって、右土地の仕入価額を三三〇万四、一七二円とした被告の推計は相当であると認められる。
3 土地の売上原価の推計方式の検討
被告は土地の売上原価につき、被告は入金額並びに期首及び期末棚卸高によって推計を行っているが、これは、土地の取得当初に区画分譲、道路部分の供出の具体的数値を知り得ないし、原告の販売土地の道路部分の面積が不明であるため、昭和四五年分ないし昭和四八年分の期末棚卸高の算出にあたって、公簿面積から売上面積を減算した残地面積に一平方メートル当たりの原価を乗じて期末棚卸高を推計したものである。
原告は、これに対して、取得土地には道路予定地が含まれており有効土地は地積より少なくなるのに、地積面積そのままの坪数で推計するのは誤りであり、別表甲三記載の仕入金額が実額である、なお、棚卸額の明細は別表甲四、造成費用は別表甲五のとおりである、と主張している。
しかし、このような原告の実額主張による推計の合理性を争うのは、前示のとおり、推計の過程である売上原価のみにつき、実額をもって推計の合理性を争うものであって、これが許されないことは前示のとおりであるから、原告の主張は採用できない。
4 売上原価の認定
以上により、売上原価は別表裁一の1ないし3のとおりとなり、売上原価の合計は、昭和四六年が八、三六二万五、六三四円、昭和四七年が一億四、二七四万八、三七四円、昭和四八年が一億四、七七五万六、一七五円となる。
五 原告主張の必要経費実額反証
1 必要経費の推計の合理性
被告は、原告の必要経費として、前示事実摘示第二の二2(四)(3)イの各係争年分の土地及び建築の必要経費を推計し、同ロの家具の事業所得金額を売上原価に平均原価率で除して算出したので、必要経費の算定を必要としないとしており、特段の事情がない限り、これには推計の合理性が認められるところ、原告は、必要経費の一部の実額を主張するが、原告は売上金額、売上原価の実額全体を主張せず、しかも必要経費についても一部の領収書を提出しているにすぎない。前示のとおり、所得の推計は、その推計の必要性が認められる以上、売上金額、売上原価、必要経費などの推計の全過程を通じて事業所得を推計により算出するものであるから、その過程の一部である必要経費のみの実額を主張してこれを争うことは許されない。
即ち、推計課税の合理性を実額反証をもって争うには、その売上金額、売上原価、必要経費の全額につき実額を主張立証をすることを要するのである。したがって、原告の必要経費のみの実額主張による被告の推計の合理性を争う右主張はそれ自体失当であって、採用できない。
ただし、建築の売上の認定が前示のとおり被告の主張と異なるので、これに経費率を乗じて求める必要経費の額は前示売上の認定額に対応して、次のとおり被告の主張と異なることとなる。
2 必要経費の認定
以上により、必要経費は別紙裁一の1ないし3の必要経費欄記載のとおりとなるが、その合計は昭和四六年が七、三三二万二、一八二円、昭和四七年が一、二九五万四、六七一円、昭和四八年が一、八九六万三、四〇四円となる。
六 算出所得額の計算
売上金額の合計額から売上原価を差し引き、売上総利益を求めたうえ、これから前示必要経費を差し引き、算出所得額を求めると、別紙裁一の1ないし3のとおり昭和四六年は二、五三一万五、一七二円、昭和四七年は一、二三三万一、五四九円、昭和四八年三、四九九万九、五四二円となる。
七 利子割引料の認定
原告の利子割引料が別紙裁一の1ないし3の利子割引料欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
八 事業所得金額の計算
事業所得金額は、前示算出所得額から利子割引料を差し引き、別紙裁一の1ないし3の事業所得欄記載のとおり、昭和四六年が二、〇一八万三、三六五円、昭和四七年が五六一万七、〇四七円、昭和四八年が二、八一七万四、五四五円となる。
九 給与所得金額の認定
給与所得金額が別紙裁一の1ないし3の給与所得欄記載のとおり、昭和四六年が二七万三、二〇〇円、昭和四七年が二八万円、昭和四八年四五万七、二〇〇円であることは、当事者間に争いがない。
一〇 総所得金額の計算
総所得金額は、前示事業所得金額と給与所得金額の合計であって、別紙裁一の1ないし3の総所得金額欄記載のとおり、昭和四六年が二、〇四五万六、五六五円(20,183,365+273,200=20,456,565)、昭和四七年が五八九万七、〇四七円(5,617,047+280,000=5,897,047)、昭和四八年が二、八六三万一、七四五円(28,174,545+457,200=28,631,745)となる。
一一 結論
よって、被告の原告に対する更正処分及び右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和四七年分は各処分とも昭和六〇年三月六日付減額更正処分による減額後のもの、昭和四八年分は各処分とも裁決による一部取消後のものをいう)のうち、総所得金額につき、前示一〇の総所得金額を越える部分はこれを過大認定したもので適法とはいえず、違法というほかないから、この部分を取り消し、原告のその余の請求は理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政訴訟法七条、民訴法九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 菅英昇 裁判官 堀内照美)
別表甲一の1
事業所得金額計算書(昭和46年度)
<省略>
別表甲一の2
事業所得金額計算書(昭和47年度)
<省略>
別表甲一の3
事業所得金額計算書(昭和48年度)
<省略>
別表甲二の(2)-1.2 長岡京市長法寺中畠の土地売買の経緯
<省略>
別表甲三
仕入金額の内訳
<省略>
別表甲四
棚卸明細
<省略>
造成費用
<省略>
別表乙一の1
総所得金額の内訳-46年分
<省略>
別表乙一の2
総所得金額の内訳-47年分
<省略>
別表乙一の3
総所得金額の内訳-48年分
<省略>
別表乙二
平均的な建物1m2売上価額
<省略>
別表乙三
平均的な建物1m2売上価額
<省略>
別表乙四の1
平均的な土地1m2当たりの売買価額
<省略>
<省略>
別表乙四の2
平均的な土地1m2当たりの売買差益率
<省略>
別表乙五の1
土地・建築の物件別売上金額算出根拠-B方式
<省略>
別表乙五の2
土地・建築の物件別売上金額算出根拠-C方式
<省略>
別表乙五の3
土地・建築の物件別売上金額算出根拠-D方式
<省略>
別表乙五の4
土地・建築の物件別売上金額算出根拠-西ノ京マンション分-E・F方式
<省略>
別表乙六の1
仕入金額の内訳
<省略>
別表乙六の2
仕入金額の算定根拠-長岡京市調子二丁目の土地
<省略>
別表乙六の3
仕入金額の算定根拠-長岡京市調子二丁目の土地
<省略>
別表乙七の1
たな卸明細
<省略>
別表乙七の2
<省略>
別表乙八
家具の仕入先別取引金額
<省略>
別表乙九
建築にかかる平均原価率
<省略>
別表乙十
土地、建築にかかる平均経費率
<省略>
別表乙十一
家具の販売にかかる平均原価率及び平均所得率
<省略>
別表裁一の1
総所得金額の内訳-46年分
<省略>
別表裁一の2
総所得金額の内訳-47年分
<省略>
別表裁一の3
総所得金額の内訳-48年分
<省略>
別表裁二の1
土地・建築の物件別売上金額-昭和46年分
<省略>
別表裁二の2
<省略>
別表裁二の3
土地・建築の物件別売上金額-昭和47年分
<省略>
別表裁二の4
<省略>
別表裁二の5
<省略>
別表裁二の6
<省略>
別表裁二の7
土地・建築の物件別売上金額-昭和48年分
<省略>
別表裁二の8
<省略>
別表裁二の9
<省略>
別表裁三
課税経過表
<省略>
別表裁四
平均的な土地1m2当たりの売買差益率
<省略>
別表裁五
土地・建築の物件別売上金額算出根拠-西ノ京マンション分-E・F方式
<省略>
図面甲一
<省略>
図面甲二
<省略>
別紙図面裁1
<省略>